企業インタビューシリーズ第1弾:アーサー・D・リトル・ジャパン株式会社 原田裕介社長、プリンシパル伊藤優馬様

アーサー・ディ・リトルが135周年を迎え新たなブランドアイデンティティを発表|アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社のプレスリリース

 

長い歴史を持つコンサルティング業界の中でも、世界初のコンサルティングファームであり、今なおリーディングカンパニーとして世界中の企業を支援し続けている、アーサー・ディ・リトル。

その東京オフィスにて、17年に渡り東京オフィス代表、およびアジア・パシフィッククラスター代表を務めている原田裕介様、東南アジアの管轄を務める伊藤優馬様に、アーサー・ディ・リトルのアジアについて、当社代表中村がインタビューを行いました。

 

アーサー・ディ・リトル(Arthur D. Little)

世界初のコンサルティングファーム。130年以上の歴史を持ち、現在は世界中に40を超える拠点を展開している。

1886年 マサチューセッツ工科大学の科学者である、アーサー・デホン・リトル博士により創業

1978年 東京オフィス開設

 

原田 裕介(はらだ ゆうすけ)

東京工業大学大学院 総合理工学研究科修士課程 修了

マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院、技術・政策大学院 修了

新卒で富士ゼロックスに入社し、研究開発、業務改革・企画管理・技術戦略を担当

1997年 アーサー・ディ・リトル・ジャパン 入社

2006年 アーサー・ディ・リトル・ジャパン 代表に就任

2017年 アーサー・ディ・リトル アジア・パシフィッククラスター 代表に就任

 

伊藤 優馬(いとう ゆうま)

東京大学大学院 新領域創成科学研究科修士課程 修了

2007年 アーサー・ディ・リトル・ジャパン 入社

2016年 Head of Southeast Asia(東南アジア責任者) 就任

 

 

聞き手:中村 啓(なかむら ひらく)

EPIC PARTNERS東京オフィス東京オフィス代表

 

 

 

左:伊藤パートナー、右:原田代表

 

 

 【原田裕介社長のインタビュー

中村

まず、原田様から、アーサー・ディ・リトル(以下、ADL)のグローバル連携やその中でのアジア拠点の特徴などについて教えていただけますか。 

 

原田代表

ADLは、欧州に本社を持つグローバル戦略ファームですが、アジア・パシフィックに広いネットワークを持つことが特徴です。日本、中国、韓国を始め、東南アジア、オセアニアに現在12か所の拠点があり、クライアントニーズや社会・産業の構造変化に応えるために、各国オフィスが主体性をもって活動しつつも、拠点間の垣根なく協力しあいながらクライアントをサポートできる運営体制となっています。このアジア・パシフィックでは東京オフィスが最大規模ですが、各国オフィスの主体性を重んじて、各国現地の仲間と一体となって動いており、結果的に日本人がチームの中心になっている、という状態です。ADLの方針として、「グローバル・ワン・ファーム」がありますが、特にアジアクラスター制(注:各オフィスごとでなく、アメリカやアジアというように、地域ごとのクラスター単位でのマネジメント制度)の導入後の直近8年ほどは、その方針の成果が結実してきているように感じます。なお、各国オフィスの連携を強化するため、国を跨ったプロジェクトチーム組成だけでなく、各国オフィスに日本人スタッフを配置したり、多数の国での経験を持つスタッフや複数国言語を流暢に扱うスタッフなどを積極的に取り入れることで、アジアにおける人的ネットワークの構築に力を入れています。また、東京を含めたアジア・パシフィックの各オフィスのPL(損益計算書)を連結で運営することも、各国オフィス間の壁を作らないための仕掛けの一つとなっています。

 

中村

原田様は、2006年から、17年間に渡り東京オフィスの代表をされていますが、日本やアジアのオフィスが、世界の中で今後どのような役割を果たしていくべきだと思われますか?

 

原田代表

これまで、東京オフィスはグローバルの中でも重要かつ中核オフィスとしてADLの成長をけん引してきましたが、これからは、東京だけでなくアジア全体としての成長が期待されています。ここ最近、ADLはグローバルにも成長しており、欧州・中東などアジア以外の地域も好調です。そういった背景の中、日本やアジアの役割は、他オフィスとの協業をさらにドライブしていくことだと考えています。

 

これは、クライアントからの要請に応えるという点でも意味があるかと思っています。例えば、ここ最近のジオポリティカルリスクに由来する、投資先や市場としての中国からのシフトやグローバルサプライチェーンの見直しといったニーズに対して、東南アジア、さらにはインドといった地域の重要性が高まってきており、当該地域での経験知見を開発、共有、発信、展開していくなど、“グローバル”カンパニーとしての役割を果たしていきたいと思っています。

 

“グローバル“カンパニーと言っても、色々な考え方があります。それはおおよそ三つくらいに分類できます。一つ目は、”マルチナショナル“で、日本の製造業で言えば、日本で企画・開発・生産し、世界中の各国地域に輸出しているモデルです。本質的なグローバルカンパニーとは言えない状態で、日本発の知の結晶であるプロダクトがグローバルに展開されているに過ぎない状態です。二つ目は、”インターナショナル“で、本社がグローバルの方向性を決めつつ、現地法人に、ある程度の権限や機能を与え推進する形態です。日本の製造業で言えば、現地で企画・開発・生産したり、地域ごとのコンピテンスセンターをつくっているという状態です。三つ目は、”トランスナショナル“で、現地法人が自律的な経営を行いつつもお互いがオープンに支援し合う状態や風土の開発を、本社が支援・醸成するというもので、日本の製造業が苦手な形態です。世界のどこかで発見、創造された”知“や”ソリューション“を素早く共有し、あるいは協力し合って”知“や”ソリューション“を創造し、顧客に届けていくことができる組織です。

何故、長々と“グローバル”モデルの違いを説明させていただいたかと言うと、まさに、日本やアジアのオフィスが、こういった“トランスナショナル”な組織の創造をリード、実践していきたいと思っているからです。

 

各国オフィスとのさらなる連携融合は、非常に高度で難しいですが、ぜひチャレンジしていきたいと考えています。コンサルティングファームやコンサルタントは、時代の要請によって提供価値やアプローチを常に変えていかなくてはならないものです。これを背景や言語の異なる各国チームやクライアントと一体となって実践していくとなると、難易度が一気に上がります。これまで経験したことがない試みですが、挑戦する意義は非常に大きいと考えています。

 

 

 

伊藤優馬様インタビュー

伊藤様のキャリアについて

 

中村

まずは、伊藤様のこれまでのキャリアや現在について教えてください。

 

伊藤様

理系の大学院を卒業後、新卒でADLの東京オフィスに入社し、現在まで16年間勤務しています。最初は日本の企業様の国内におけるプロジェクトの支援をしておりましたが、段々と日系企業様の東南アジア進出や成長戦略のお手伝いをするようになり、2014年にシンガポールオフィスに異動し、そこから現在までアジア・パシフィックを中心としたコンサルティングに従事しています。

現在は、コロナも終わり、頻繁に東南アジア各国を移動しながら、アジアのクライアントのサポートをさせて頂いています。昨日の朝はマレーシアにおり、来週の月曜日はインドネシアにいると思います。今週末は多分シンガポールにいて、再来週は東京にいる、そのような働き方をしています。

 

中村

新卒で会社を選ぶ時から、グローバルに働く、という視点も持っていたのでしょうか。

 

伊藤様

そうですね。私はそもそも海外生活経験があるとか、英語が流暢に話せるといったような学生ではありませんでした。そんな中でも、将来どこかのタイミングで、世界で活躍できるような人になりたい、その可能性が高い会社で働きたいという考えを持っていました。ただ、それだけではなく、大学時代に理系の院生だったということもあって、日本の製造業の発展に貢献したいという思いも同時に抱いており、グローバルおよび製造業への貢献がどちらもできるADLに入社しました。

 

中村:

コンサルタントを16年間も続けてこられたのは何か理由はありますか。

 

伊藤様

まず、コンサルティングという仕事そのものが面白いと思いますし、やりがいもあるも思っています。グローバルな事業環境は常に変化していますし、技術も日々進化しています。そのため企業・事業の成長を推進・継続していくためには、常に何か新しいアプローチが必要で、コンサルティング活動を通して多くの新しいことを学びながら、挑戦していくことができていると感じています。またクライアントを通して、ADLや自分の考えが、世の中に出ていき、成長に貢献していくということにやりがいを感じています。プロジェクトがうまくいったときはクライアントに喜んでもらえますし、うまくいかなかった時でも一つの学びになる。そういう意味でとても面白いと感じます。

 

 

海外オフィスの特徴・位置付け

 

中村

ADLは製造業、知財といった領域に強みを持っていらっしゃるファームとの印象がありますが、アジア・パシフィック領域でも製造系のクライアントや、製造業のバックグラウンドを持つコンサルタントが多いのでしょうか。

 

伊藤様

日本には世界で活躍する数多くの製造業があり、日本でコンサルティングを行う上で、製造業に貢献することは非常に重要と思います。一方で、アジア全体を見ると、各国それぞれの経済や生活を支えるエネルギー、テレコム、トランスポーテーション、バンキングなどのインフラ産業や、巨大な人口と需要に支えられた消費財、ヘルスケアなどの生活必需品産業の発展も非常に重要な位置付けとなっています。ADLでは、日本をベースとして培った製造業における強みを活かしつつも、その他産業への貢献も通して、地域全体の発展に資するサポートができるよう、多種多様なバックグラウンドのコンサルタントが活躍しています。

 

中村

各国に展開されるオフィス間で、連携しながらプロジェクトを進めるにあたって、皆様は普段どのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。

 

伊藤様

物理的に別の国をベースとしているスタッフが多数おり、また国籍・年齢、過去の経験などが異なる様々なコンサルタントが、連携し最大限の価値を発揮するためには、様々な工夫が必要ですが、組織内のスムーズで効果的なコミュニケーションは非常に重要です。定期的な公式のミーティング、ニーズベースでのテレカンなどに加えて、ウェブチャットなど多くのコミュニケーションチャネルを用意し、目的やタイミングに応じて適切な手段で連携ができる状態を意識的に構築しています。またお互いに相談しやすい雰囲気・文化を組織としても重視しており、これにより各国に跨ったチーム間でもリーン&アジャイルなオペレーションが可能になっていると考えています。

 

中村

なるほど、ツールも駆使する一方で、気軽にアクセスでき話しかけられる、というところも、意識的に設計をしているのですね。メンバー同士がフラットに接するという社風を感じます。

また様々なバックグラウンドのメンバーによる連携について言及がありましたが、会社としてダイバーシティについてはどのようにお考えでしょうか?

 

伊藤様

ダイバーシティがあることのメリットは多いと考えています。一つのチームの中に同じ背景のメンバーしかいない場合、議論や検討の結論はどうしても面白くなくなってしまいます。違う背景・色彩のメンバーが集まって、一方で、同じ方向・目的に向かって取り組む、という点が重要です。クライアントへの価値を高めようと進める中で、結果としてダイバーシティが実装されてきていると感じています。

 

 

海外オフィスの位置付け

 

中村

伊藤様のお考えとして、アジア・パシフィック領域で、東京オフィスがどのような役割を持っていて、どのような役割を果たしていくべきだと思われますでしょうか。

 

伊藤様

東京オフィスは、アジア・パシフィック領域で最も歴史も長く、業績や知見でもリードしてきています。そのため、東京での経験・蓄積を活かしてアジア全域を成長させていくというのは、理に適っています。一方で、東京オフィスがアジア・パシフィックにおける最大オフィスだからこそ、原田の言うインターナショナルなモデルからトランスナショナルへのシフトをリードするという役割も非常に重要だと考えています。東京での知見やアプローチを活かしつつも、各国個別の環境・課題に即して、各国メンバーとの協議・融合を通して、個別個別のソリューションを展開していけるように様々な仕掛け・取り組みを実施しています。自由度を持つ組織であるためには、各オフィス、各産業チームの間や、国籍や背景の異なるスタッフの間での垣根をなくして、序列なくお互いに学びあう、という考えをちゃんと発信していくというのも、重要な役割だと思います。 

 

中村

なるほど、非常に興味深いです。ありがとうございます。

 

 

アーサー・ディ・リトルのDNA

 

中村

次に、伊藤様が考える、アーサー・ディ・リトルというファーム全体として、特徴的な点についても教えていただけますか。

 

伊藤様

ADLは、コンサルティングファームの中でも最初にできた歴史の長い会社です。コンサルティングという業態は、世の中の変化に対応しながら、自身も変化させながら、最適な課題解決をクライアントに提供するもので、さらに製造業のようにモノをベースにした事業ではなく、ソリューションという目に見えないサービスを展開するというものです。130年以上前の創業当初のADLには、もちろん今とは全く異なるスタッフ・チームがあり、クライアントの課題も解決への手法も現在とは違っていたと思います。しかし、130年以上経った今でも、ADLという会社は存在し続けています。変化の激しい業界だからこそ、目に見えないソリューションをベースとした事業だからこそ、とても不思議だなと感じますし、そこにADLの特徴が表れているようにも思います。例えば自社の製品としての「自動車」などのモノが残っているとすれば、「これが受け継がれてきたんだな」と直感的に理解できるかもしれません。しかし、ADLの場合、提供しているサービスがモノではなく、かつ常に変化・進化しているので、それがどうやって継承され、存在し続けているのだろうと考えることがあります。

そのヒントとして、例えば、ADLでは、自身で特許を取得したり、パッケージなどの開発会社を自社内に保有したり、大学を立ち上げてみたり、宇宙産業に投資してみたり、常に新しい試みを行っています。どうようにビジネスとしてスケールしていくか明確でないこともあるかもしれませんが、新しいことにずっと挑戦してする中で、いろいろなものを学び、成功のノウハウを体得し、ナレッジが蓄積・刷新され、自分たちの在り方も常に変わっていきます。そうすると、自ずと環境適応もできてくると思っています。

そのようなチャレンジが好きな人が集まっている、そうした志向の人を許容する会社の雰囲気・カルチャーが、ADLにおける一番の特徴だと思っています。

 

中村

生き残り続けるためには変化し続けなければならない、ということでしょうか。

 

伊藤様

新しいことに挑戦するのが好きな人が集まって、結果としてずっと生き残っている、というのがADLの面白いところです。最初にADLが創業された時に、そういう信念を持って立ち上げられたのではないかと想像しています。

 

中村

なるほど。それは非常に面白いですね。

 

 

海外オフィスの採用について

 

中村

人を採用する際のお話に移らせていただきます。まずは伊藤様が候補者に対して、どのような点を重視していますでしょうか。

 

伊藤様

ロジックやプロフェッショナリズム、特定トピックや業界での経験や知見などのコンサルタントとしての基礎的な素養に加えて、私は以下の点を重要視しています。

 

まずは、「新しいことに取り組んでいきたい、学んでいきたいという姿勢」です。これまでもお伝えしてきた、ADLの考え方を共有できるか、という視点で重要です。また、「新しいことに挑戦する」ということは、結果として何かを作る、ということと同義です。アジア・パシフィックのオフィスも、年々基盤を構築してきていますが、まだまだ足りないものも多い状態です。それを共に創っていく、というマインドがある方に参画していただきたいですね。

また、他人をリスペクトすると同時に、自分へのリスペクトを持っているか、という点も重要視しています。例えば、海外クライアントと相対するときに、もちろんクライアントに対してリスペクトを持ちつつ、自分としての強みも認識していることが大切です。自分と他者どちらか片方のリスペクトが強すぎてもうまくいきません。また、「自分のこのような経験をこのような場面で活かせます」などの考え方を持ち、伝えられる人も良いですね。この姿勢を当社ではRespect each otherと呼んでいます。

 

 

中村

最後に候補者へのメッセージをお願いいたします。

 

伊藤様

私が長期にわたりコンサルティング業界、ADLにて活動しつづけられる理由というのが、仕事自体が面白いということもありますが、加えて、良いタイミングでいろいろな挑戦の機会があったためだと考えています。ADLにはチャンスが溢れています。海外で働けるということ以外にも、東京をはじめ他のオフィスでも、いろいろな新しいテーマがあり、絶えず挑戦しています。そのような環境が好きだという方には、ぜひご応募いただきたいと考えています。