電動キックスケーターの公道走行がラストワンマイル用のモビリティとして注目されています。電動キックスケーターは30年ほど前にホームセンターなどで販売されて使われましたが、警察により原付扱いで各種保安機器、登録等の必要な車両となり、一気に消滅しました。
○規制改革の概要
・現状認識
技術の進展等により、新たな小型モビリティが多種多数に開発され、様々な実証実験が行われています。しかしながら、既存の交通ルールの下では十分にその性能や利便性を生かすことができない可能性が指摘されており、交通ルール等の在り方の見直しを求められています。
・検討内容
事業者等の意見や実証実験の実施状況等を踏まえつつ、在るべき交通ルール(新たなモビリティのみならず、他の交通主体を含めた多様な交通主体の全てが安全かつ快適に通行することを可能とし、また、社会的な理解・合意を得られるもの)について多角的・体系的な検討を行う計画です。この中で電動キックスケーターのラストワンマイルでの活用が検討されます。
○キックスケーターの規格の三分化
・歩道通行車両
規格:時速6キロ未満、大きさは電動車いす(シニアカー)相当以下、この速度だと電動キックスケーターは3輪でないと不安定だと思います。無人の配送ロボットもこの範疇に入ります。
規制:歩道が通行可能で全く歩行者と同じ交通規則で、ヘルメット着用も、車両のライトなどの保安機器にも規定はありません。
・小型低速車
規格:時速15キロ未満、制動装置、前照灯は必須ですが制動灯や方向指示は必要ありません。アシスト自転車の延長ですので、狭い道などで自動車と混合した走行の場合には、必要に応じて道交法の手信号で指示する必要があります。
規制:走行は自転車用通行帯でヘルメット推奨に留められています。免許は現在では交付時の講習がいらない小型特殊免許ですが、将来的には免許不要で講習会を修了することが条件になる可能性があります。
・原付
規格:時速30キロ未満、制動装置、保安装置(前照灯、ナンバー、ナンバーライト、方向指示器、制動灯)が必要です。
規制:ヘルメットは強制です。車両の市町村での登録が必要で、これにはメーカーが発行する登録用の諸元表などが必要になります。免許は原付免許が必要で、普通免許には付帯しています。原付免許は試験は学科のみですが、交付時には実技講習が必要なので、最小限の技量は必須になります。
○電動キックスケーターの特性と問題
・低重心
ハンドル以外は全て足の下になる構造ですので、低速でも倒れにくいのは利点ですが、その分だけ高速では曲がりにくくなります。電池を搭載することで更に低重心となっています。
・軽量
軽量こそはキックスケーターの最重要機能です。担いでもカートのように片手で引きずっても負荷が感じられないことが、パーソナルなラストワンマイルに使いやすい条件です。その代り、軽量は外力の影響が及びやすく、ちょっとした凹凸で前輪の方向は変わるし、風により直進性は失われてふらつきやすくなります。
・小径タイヤ
小径タイヤは、キックスケーターの最大の利点である可搬性の中でも、折りたたんで公共交通機関に持ち込むための絶対的な条件です。そして小径のほうが回転荷重がが少ないため小さなモーターでも弱い電力でも円滑な走り出しができます。その代り径が小さいとタイヤの遠心力が小さくて自立安定性が失われますし、接地角度が大きくなることにより直進安定性も悪くなります。また体を傾けて曲げる場合は浅い角度でも急激に曲がれるので、注意が必要です。これを大径にすると折りたたんでもコンパクトにならず、重要な可搬性は失われます。
・立ち乗り
キックで始動するために立ち乗りは必須です。座席がないために軽量とワンタッチの2つ折りが可能になっています。ステップ上の立つ位置が一定ではないので、ハンドル荷重が立ち位置により変化します。
○電動キックスケーターが晒される交通事情の問題
・路側帯の問題
低速車中の低速者になりますので、路肩付近が走行体になります。その場合、歩道横断用の段差解消用の傾斜ブロック、排水性のための路側帯の傾斜が急になってます。排水口の金属格子、雨などで溜まった砂利小石や落ち葉があって、接地面の小さいキックスケーターのタイヤのスリップの原因になります。
・横断歩道
片側3車線など幹線道での低速車の右折は、対向の直進車の間隔が大きくなければならず、後続の車両と右折タイミングが異なるので混乱を招きやすい。
・免許の問題
原付か小型特殊かで大きく異なるのは実技講習の有無であり、小型特殊の取得が1日でできるのに比して原付免許の取得は2日間かかります。また、原付免許では小型特殊は運転できないので、原付運転の高齢者の受け皿にはなりません。
・ラストワンマイルの交通機関
日本において民営の自転車シェアなどが成功し一般化しないのは、日本人が歩くことをあまり厭わないからでしょう。また、都市ではタクシーの流し営業があり、荷物などがあればラストワンマイルでもタクシーを利用することができます。1駅歩こうと言われる現代に、ほんの10分から20分程度の歩きにモビリティの多用を想定するのは中々困難だと思います。
【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。