『量子コンピュータを大まかに理解する』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

1 量子とは
○素粒子
素粒子は物質の最小形体を追求した結果得られた現在の最小単位のことです。物は何でできているか?という疑問に対して、ギリシャでもデモクリトスの原子論やアリストテレスの4元素説がありましたが、原子論はドルトンが再発見し、アボガドロの分子の発見で原子の結合により全ての物質ができている、と決定されました。その後に100以上という原子種が最小単位としては不自然ということから、原子に様々な働きかけをして電子が分離されました。ラザフォードは負の電荷を持つ電子に対して原子を中性化する原子核とその構成要素である陽子を提言し後に原子核のもう一つの構成要素の中性子はチャドウィックにより発見されました。その後、陽子と中性子の内部構造としてクオークとそれを結びつける強い力の媒体としてのグルーオンが発見され、既発見の電子、光子と合わせて物質の構成単位としての素粒子となりました。


○量子
光は波動であると言われていましたが、アインシュタインは光量子仮説で、波であり粒子である量子の概念を表しました。電子の不確定性からド・ブロイは電子の波動の性質があることが分かりました。質量のない光子だけでなく電子の波動から素粒子は粒子と波の性質を併せ持った、とても小さな物質やエネルギーの単位であると定義される量子であるとみなされました。
この定義において量子と言ってより重く感じるのは、電子に波動性が乗るということでしょう。

 

2 デジタルコンピュータ 
○演算
デジタルコンピュータは演算をします。2進法をスイッチのオン・オフに割り付けて、1加えるとオンオフを切り替える、オンをオフに切り替えるときには隣のスイッチをオンにする、という規則だけの単純機構を回路にしたものです。その回路は、インプットとアウトプットを予測した演算を設定し、条件を入力データとして、ひたすら2進法の足し合わせを繰り返して、その結果を予測アウトプットに従って計算値、比較結果、オンオフスイッチングをアウトプットするものです。


○なぜ遅いか
2進法のために、1/2の確率で発生する下のビットの繰り上げの有無の決定を待たないと上の桁の計算ができないために、下の桁計算の終了をしる必要があります。そのために、ビットスを切り替えできるのに十分な時間を最小単位として、作業締め切りを作ります。それをクロックとしてクロック毎にビットの桁を上げながら計算することになります。クロックは周波数で表しますが、その数値は独立した計算ならば平衡で実施できますが、カスケードな計算の場合、全てのビットのクロックの合計だけ時間がかかることがわかります。

 

3 アナログコンピュータ
○道具としてのアナログ・コンピュータアナログコンピュータは、電気的な汎用コンピュータや機械式の計算尺が思い浮かびますが、専用機器の方に需要があります。私が最初に携わったものは速度と旋回Gを電流に換算し、電流分だけホログラムの付いたジャイロを動かして見越し角を表示するガン射撃照準器でした。実はアナログ計算機の原理を知る道具はたくさんありまして、星座早見盤などはその典型でしょう。片面で月日と時間を矢印に合わせると、もう片側に星座の配置が現れる仕掛けです。


○なぜ速いかアナログの特徴はインプットがなされたと同時に計算結果が出力されます。これは入力と出力に因果律が有るからです。論理的な因果律の高速性は当然ですが、電流量などの演算媒体の因果性も考えられます。他にも計算に適合した因果律を持った媒体は、水、バネ弾性、歯車などたくさんあります。因果が確定されたものは因を決定した時点で果は自明になります。

 

4 バイオコンピュータ

○DNAコンピュータ
バイオコンピュータの最も教義の示すものがDNAコンピュータと言われています。DNAの塩基対をビットとしてDNA1本で1種の状態を表して、可能性の有る事象を揃えて有る条件下におくと、条件下の最適事象が最も多く残存するという可能性を利用して演算するというのが正しいのではないでしょうか。汎用計算は困難ではないでしょうか。


○生体コンピュータ
バイオコンピュータとして注目されたのは生体コンピュータ、特に粘菌の行動です。粘菌は多様な通路の片方に餌を置くと、餌と本体間に吸収体を伸ばすわけですが、多様な通路から最短距離のルートに収斂し、他のルートは本体に戻ります。このような生物の嗜好や代謝や複製、輸送などの生体反応が演算式として活用されることも考えられています。

 

5 量子コンピュータ
○量子コンピューターは量子ビットコンピュータ
やっと量子コンピュータの話ですが、多くの量子コンピュータは量子論やミクロの不確定状態を利用してもいません。いわんや、量子挙動を起こす特殊な素粒子クオークやグルーオンをビットに使ってもいません。将来的には有るかもしれませんが、計算は通常の素子を介して行われます。
どこが量子かといえば、使用しているビット、デジタルではスイッチオンオフの部分が量子ビットと言われるものでできています。


○量子ビット
量子ビットは波動的に表されます。通常のデジタルでのビットはノイズを十分に考慮した電圧の閾値を設定し、ビット分のクロック時間中にその閾値を超えた信号を計測したらそのビットはオン信号、計測しなかったらオフ信号として二進法化して数値を回路上に構成します。
電子は超伝導状態では高いコヒーレンシーを持つために、それを利用して波動を量子性として利用できます。高周波数を短距離で重ね合わせて、は電子など量子性を持つ素粒子の波動をそのまま信号として利用すると、波動は一つに見えますが、重ね合わした波は重ね合わせの中でも保存されています。そのため重ね合わせた信号を一つの信号として処理しても、処理後の信号内で保存されているので、計算後に分離することができます。


○量子コンピューティング
重ね合わせて多重な計算ができるのでクロックで左右される割合が小さいため、大規模演算が高速で行うことができます。問題は出てきた回答が重ね合わせた状態ですので、分離しなくては数値が取り出せない場合があります。回答が含まれていることは明確ですが、個別の数値は表に出て来ない場合が多いです。正解の存在がわかれば良いという演算もありますので、その場合正解波動で共振の存在を検出すれば分離する必要はありません。確かに深層学習アルゴリズムなど、正しく働いたかの検証は正解出力の存在があれば十分でしょう。
その意味で、使える演算を増やしていくことが重要と言われています。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

記事一覧へ