『現在の選挙制度は意外とよくできている』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

1今回の選挙のや近年の選挙で言われる問題点
今回の選挙で選挙制度の非効率な部分がクローズアップされています。それを以前から言われている項目と合わせると、以下のようになると思います。
○直接投票用紙による投票は時代遅れ
○連呼する選挙カーの騒音
○売名行為のための立候補者
○費用がかかるが役立たない選挙看板
○パフォーマンスとしか思えない政見放送
これらのことについて考えてみようと思います。

 

2選挙制度の骨幹
○日本国憲法
日本国憲法が米国の草案によるのもというのは周知であり、また米国が民主主義の教科書通りに国民皆保険、国民皆年金、公営住宅、生活保護支給などの設立を誘導して平等な社会になるように設定したと言われています。
それは選挙制度においても同じです。完全な普通選挙の実施、選挙権・被選挙権の普通化、候補者間の機会平等など自由平等の徹底がなされています。前項でピックアップした、一見奇妙に感じられる制度は、この自由と平等の徹底した結果と考えることができます。
○公職選挙法
いわゆる選挙はというものは、公職選挙のことです。公職選挙は国政選挙と地方選挙に分かれます。昔は其々に法律が有りましたが、現在は公職選挙法で統一され、公職選挙法で選挙のあり方を示しています。
それは、第一条(目的)によって(本法律は)「日本国憲法の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする」
これを見ると、「憲法の制定意図を現実化できる制度であること」、「投票権の有る国民が選挙を通じて個人の意志を自由に発揮できること」、「選挙という行為すべてが公に対して透明性が維持されていること」、「選挙全体が、候補者、投票する各個人に対して平等であること」、「民主政治の育成に寄与できる制度であること」と読み取れると思います。

 

3問題点の検証
○直接投票用紙による投票は非効率
現在の投票行為は何十年と変わっていません。入場券を受け取って、それを投票場でしめして投票用紙を受けとり、仕切りがある記入場所で初めて記入し、用紙を折って投票箱に投函します。家の近くの投票場所は投票日、投票時間に限定されていること、自書する必要があること、投票場所に当人が出向く必要があるなどがあることなど不便性が言われており、期日前投票ではバスやタクシーを使った移動投票所を運営することはありますが、それでも投票所に行って自署しなくてはならないのは同じです。
電子投票や郵送投票は在外も簡単にできるため目指している自治体もあるようです。
電子投票や郵送投票の問題点は、投票者に自由意志が確認できないことでしょう。どんなシステムを考えても、現状以外の投票方法で強権により見張られて投票したという可能性を排除できない。また少なくても管理者にはアドレスやIPを解析すれば投票した人とその内容がわかるわけですから自由性が担保できないと思います。
○連呼する選挙カーの騒音
選挙カーの評判は悪いです。いきなりやってきて大きな音をさせて、通り過ぎたと思ったら直ぐ次がやってくるという印象が強いようです。候補者のできることは限定されています。選挙事務所の設置、選挙運動用自動車の使用(移動連呼)、選挙運動用はがき郵送、新聞広告、候補者宣伝ビラの配布、選挙公報、ポスターの掲示、街頭演説個人演説会があります。この中で公的なものを除き、広範囲に組織なしに事故の存在を候補黄できる行為は、選挙運動自動車による連呼行為のみです。長時間強制的に意志のない個人に呼びかけることは自由意志に反しています。割と短時間に過ぎ去ってしまう選挙カーによる連呼は拘束行為に当たらないギリギリの範疇だと考えます。
○売名行為のための立候補者
売名行為のための立候補者を制限することができるかを考えると、被選挙人の自由を制限できる要因に何が有るかということだと思います。立候補の自由の制限は制限基準を明確にしないと自由を制限できる道筋をつける可能性があります。売名行為の不利益と自由制限の不利益を比較して売名行為の不利益が十分に勝っているという必要があります。
ここで、投票者に対する売名行為の不利益を考えると、政見放送で時間を取られる、候補者看板が見苦しい、看板が大型化して費用がかかるしそもそも邪魔、などという多様な影響はありますが、それらの殆どは投票する人が感じる不快感です。それに対して現状に対する反抗をを抑圧すること、つまり政策無しで現職批判ばかり、などもある程度の投票人は不快に感じる場合があり、それと売名行為の境は明確にできません。危険性のほうが高いと思われます。
○費用がかかるが役立たない選挙看板
候補者が自身の立候補を示す行為は選挙制度にとって重要です。特に積極的に情報を収集しない投票者に対しては候補者の存在を伝えるのは大変です。かといって戸別訪問は動員力が資金力の差が公平性を失う要因となるので禁止されています。またポスターも掲示場所を確保するのに資金差が公平でないので禁止されています。場所を限定して公的機関が提供することで、掲示枚数と場所を制限するということで公平性を確保しながら候補者の顔を知らしめる方法としては良い方法だと思います。
○政見放送
政見放送はパフォーマンス化しています。政策よりも個人の表現のために利用することは批判の対象になっています。政見放送は、他者の名誉を傷つけたり、著しく風俗を害したり又は特定の商品や営業広告、宣伝を除き禁止してはいません。個人のパーソナリティ、キャラクター、アイディアを示すことでの共感を得る行為が投票行動に結びつかないと明言できない以上、候補者に対し、全く加工せず公明であり、候補者ごとの偏見なく平等な機会を与えることのほうが重視されるのは合理的だと考えます。

 

4現在の選挙制度は意外とよくできている
憲法の精神を真面目に実現しようとすると、現状の選挙制度が自由と公平と権利をすべて尊重した結果の上に出来上がっていることがわかる。米国のように郵便投票があったり、候補者名が印刷されてチェックで印をつけるようなシステムは、日本人にとっては制度を正しく運用させるには危険が多すぎると感じられる。また資金を掛けられる不平等さも市民の支援の度合いの現れで、厳密に一人一票という配分は単なる形であるという実情は、政治参加の権利に貴賤の差はないという理想を持った日本人には腑に落ちない。
これは他の国でも同じことで、日本国憲法でがんじがらめを不思議に思わない日本人にとっての選挙制度は他国を参考にしても仕方がないのだと思います。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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