『レーダーの誰も知らない基礎』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

1 基礎
○生活の中の様々なレーダー
レーダーと言って普通に思い出すのは、天気予報で見る気象レーダーと交通取締りのオービスレーダ、スピードガンレーダーなのでしょうか。それでも、数年前に韓国海軍が自衛隊の哨戒機にレーダー照射したというニュースで、武器を発射するためにもレーダーが使われていることを知った人もいるかも知れません。
○レーダーは何を計測しているか。
電波などを使って、遠距離にあるものを探知する装置があります。気象では雲と雨滴の方位距離、風速など、オービスでは自動車の速度、スピードガンではボールの速度を測っています。その中で、特に方向と距離を測るものをレーダーと呼びます。
○レーダーの一般的原理
レーダーは最も簡単に言うと、電波を送信して対象に当たって反射してきた電波を受信する装置であり、距離は電波を矩形パルスとして弾のように撃ち出して跳ね返って帰ってくるまでの時間、方向は電波の跳ね返ってきた電波を上下左右4象限のパターンを構成したアンテナで受け、その受信電力の比率から計算し、速度は電波の周波数のドップラー偏移から計測しています。
多くの電波が飛び交っている領域では、送った電波と受けた電波を同じものと見分けなくてはいけませんが、それは主として周波数とPRF(パルス繰り返し周波数)で同定します。周波数は送信機が発振する搬送波の周波数ですが、PRFは搬送波を出したり止めたりして矩形に整形したパルスの発射頻度を周波数として表したものです。高性能なレーダーでは送信機の搬送波の波形を記憶し、受信電波の波形のコヒレンシーの度合いでも同定しています。
○レーダーの一般的課題
レーダー電波は二次元球面として広がりますので、距離の2乗に比例して減衰します。それが片道で、帰りも2乗ですので減衰は4乗に比例することになり、遠距離ではとても小さな受信電力になります。
ノイズ環境にある場合、ノイズに相当する電力を0レベルとする閾値を設定しますので、受信電力と判断できる電力は一層小さくなります。補足しようとする目標やその付近からの電波妨害がある場合はノイズが信号パルス以上になり信号パルスが埋もれてしまう可能性もあります。
○その対策
周波数ホッピングは常時または妨害などノイズの上昇を検知した場合、使用する周波数を変更します。妨害源は妨害中は対象の使用周波数をモニターすることはできません。妨害源は時々妨害を止めて対象の使用周波数を確認し、ものとの周波数に留まっていない場合は対象の周波数の計測を試みます。
またパルス圧縮はパルスを時間積分することによって、受信後の信号パルスの尖頭出力を上げて、ノイズより高いパルスを形成します。受信後の捜査なので妨害者にはわかりません。
スプレッドスペクトラムも最近の手法です。パルス圧縮とするのですが、時間軸ではなく予め分散した周波数帯域を狭帯域に重ね合わせて高いパルスを形成するやり方です。圧縮するもとの信号自体を周波数分散していますので周波数検知がされにくいという利点があります。

 

2 捜索レーダー
○全方位性
捜索は、雲にしろ飛行機にしろ、どの方向から来るのかわかりませんから、ある一定の方位領域を走査します。気象レーダーの場合は機械的にアンテナを360度旋回させる物が多いようです。機械的に回す場合は、上下に扇を開いた形状の電波ビームを形成してそれを一周回して全方位を創作します。この場合には上下は位相が異なるビームにして高度を計測します。昔は上下にアンテナを振る測高専用のレーダーもありました。
軍用の捜索レーダーはグループになっていて、其々の担当方向がありますので、アンテナを全周囲振る必要がないため、現在ではアンテナ素子を多数平面に配置した電子捜査の物が多いようで、それを窓ガラスを拭くときのように空中の領域を満遍なく捜索します。
○リフレッシュレートが低い
このようにある領域を捜索することから、目標を見つけてもその間に当てているレーダーパルス数はそう多くはできません。また同じ目標を次に見つけるのは次の捜索タイミングになります。その間に目標が高速移動する場合は、大きく違った位置で再探知することになります。
○距離方位計測は難しい
捜索レーダーはレーダーパルスの往復時間で距離を測ります。そのため打ち出したパルスが返ってくる時間を計測する必要があり、パルスが返ってくるまで次のレーダーパルスは打ち出せませんので捜索範囲内に目標がいる間に目標に当たるパルス数は少なくなります。目標を捉えるパルス数が少なく、また遠距離を捜索するためには減衰の大きさを考慮してパルスは高パワーが必要なために長いパルスを使用します。パルスが長くなるとパルス幅自体がかなりの距離に相当しますのでその分は誤差になります。またヒットパルス数が少ないと、平均値や分散が不正確になりますので距離、方位の精度は低くなります。
○追跡はAIの予測
このように正確性が低くレートが低い捜索レーダーは目標を見続ける事ができません。他も探すために見つけた目標から次々に目を離します。そのままでは捉えた対象を同定して連続運動体として認識することはできません。雲であっても敵機であっても重要なのは未来予測なので、このままでは役に立ちません。そのため、AIなどのよって前後の補足データが移動の結果であることを推定します。

 

3 FCSレーダー
○FCSとは
武器使用に必要なデータを計測するためのレーダーを主体とするシステムをFCSといいます。目標を見つけるだけでなく、目標の状態を計測する必要があります。武器を使用するには最低限、目標と自分との相対位置が必要です。また、命中精度を高くするためには、武器が目標に到達する時点での移動を含めた目標位置を予測することが必要です。前述の捜索レーダーではその計測が難しいのでFCSレーダーには捜索に加えて補足と追尾という機能が必要になります。
○ロックオンとは
ロックオンという言葉を聞いたことがあると思います。多くの対照群の中から特定の個体を識別して集中してデータを取る時に使います。働きは指定された目標を他の目標から分離する捕捉とその目標に高頻度でパルスを照射しデータを収集する追尾の2段階に分かれます。
捕捉というのは、ある事前設定した条件での自動、または捜査員による手動選択で、捉えようとする目標を決定します。そうするとシステムはその目標に対して、速度、距離、方位にゲートを掛けます。ちょうどカメラでズームするようになります。目標がゲート内に入る確率を上げるようにゲートのハイとロー間隔を狭めて行き、外れない最小幅に達した時に補足を完了します。
追尾は目標のデータを集積する行為です。3軸全ての速度、加速度、角速度、各加速度を集積します。そのデータを使用して選択した武器に対して命中させるための発射データを作成し、ディスプレイ表示し、ミサイルならばミサイル側に目標との会敵予測位置と会敵にかかる時間を送信します。
○高精度のためのPRF切り替え
追尾に入るとレーダーはパルス数を増やしてデータの精度を上げます。パルスが多くなると発信したパルスが返ってくる前に次のパルスを送信することになりますが、距離は決定していますのでその距離に適した送信と受信の組み合わせは算出できます。

 

4 ミサイル用レーダー
○IR誘導とレーダー誘導
武器に目標データを送信すると書きましたが、ミサイルにもレーダーが載っているものがあります。ミサイルの誘導システムは大きく分けて赤外線(IR)方式とレーダー方式があります。主としてIRは短距離、レーダーは中長距離を担当します。また、バリエーションという意味でも航空機の場合にはこの2種類のミサイルを混載し、目標に対応して使用している場合が多いです。IRのいいところはとにかく安いです。そして実質的には追尾ジンバルがついたIRカメラなので軽くて小型化できます。短距離なので急加速してIR源をカメラの真ん中に来るように高旋回でぶつかっていけばいいのでとても機構が簡単です。
○レーダー誘導ミサイルの利点
レーダー誘導ミサイルの利点は目視外攻撃能力でしょう。システムの管制誘導用レーダーが追尾さえできればどのような距離でも攻撃可能なものもありますのでミサイルの燃料さえ可能なら長距離での対応が可能です。レーダーの電波は距離の4乗に反比例すると書きましたがこれは、目標に向かって飛んでいくミサイルにとっては低出力でも細く追尾ができることを示しています。また速度が早いことも利点があります。相対速度が大きく取れることはドップラーレーダーにとってノイズフリーになり、小さな出力でも信号とノイズの比が改善します。
○捜索はIDのみのレンジスキャン
ミサイルのレーダーは特異的です。マッハ2以上で飛行するミサイルは速やかに目標を捕捉追尾する必要があります。そのためにはミサイルは捜索しないで、いきなり捕捉から入るようなシステムになっています。これは事前に発射母機の追尾データから目標情報が発射タイミングでミサイル側に送られていて、ミサイルは自分の速度と移動距離により補正して、目標方位距離をほぼ確定しているので距離と速度のゲートは作成されていて、速やかに追尾に移行できます。
○距離、方位、速度がわかる利点
中長距離ミサイルが距離方位速度を計測するのは、遠距離から発射するために会敵までの時間がかかるために、その間に向かってくる目標が機動反転すると攻撃可能距離が激減します。向かい合う場合は相対速度が大きくなり現時点で離れていても会敵できますが、追いかける形だと相対速度が小さくなり近くても接近できなくなります。中長距離ミサイルは飛翔する距離を節約するために、相対速度、相対位置から最短距離の会敵位置を計算して、目標を追いかけないで将来位置へ向かって飛んでいきます。射撃や弓などでリードを取る行為と同じです。将来位置を予測して追尾すると発生する旋回も緩やかで対応可能になります。大型で長いミサイルにとっては旋回Gを減らせるのはとても有効です。
○高精度の必要性としての弾頭威力
誘導精度は結果的に目標との交差距離になります。距離ゼロならば直撃ですが、IRにしろ電波にしろ、ある距離にまで接近すれば受信強度は飽和してしまい、アンテナを振っても方位による差がなくなって方位に誘導ができなくなります。それが誘導制度の限界で、それ以降の誤差は弾頭の性能で対応します。弾頭はミサイルの周囲方向に弾殻を散布して効果として10m程度の誤差を解消します。
○近接信管レーダーシステム
ミサイルにはもう一つ別のレーダーが搭載されています。目標を検知して弾頭を起爆させる近接信管のレーダーです。信管システムは、目標が弾頭の威力範囲内に入るまでの余裕時間、信管作動時間、弾殻飛翔時間を合計したタイミングで信管起爆信号を発生させるシステムなので、性能として探知から起爆までの全てを20ms程度で収めなくてはなりません。結果として探知距離は数十メートル、高パルス頻度にからミリ波レーダーに帰結します。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

記事一覧へ