『1+1=2を考える』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

1 子供の疑問としての1+1=2への回答
○1+1=2は何故なのかという疑問で算数が嫌いになる子供の感覚は、正解が決められていることへの疑問です。子供は、幼児で家庭保育から幼稚園へ行って、自分以外は譲歩できる年長者しかいない状態から譲歩できない同年の存在から自我の衝突による不自由さを感じます。ただその3歳、4歳の知能は不自由の実感だけであり、また幼稚園から帰宅すれば元の環境があるので多くの幼児は実感は余りありません。


小学校への入学でもっと大きな不自由に直面します。自己の主張や権力行使、権力者への懇願でも全く変更できない絶対的な正解の存在です。そこで、その疑問を助長するのは大人がやる1+1=2にリンゴ1個+リンゴ1個がリンゴ2個という説明です。大きな林檎と小さな林檎が同じ1個のワケがないなどの否定のための逃げ道を見つけます。そうして絶対的不自由への抵抗、あるいは絶対的な不自由からの逃避を正当化するわけです。

これに対して、子供の疑問の発意を理解できない大人は回答をしようとします。その結果、普通の大人程度ではそれに回答できる語彙を持っていないということに気がつくわけです。それによってこのことは子供の疑問を当然であり単純な疑問こそ難しい問題というレトリックに満足するわけです。

 

2 数学にとって1+1=2は証明の対象
○「ペアノの公理」という回答
ペアノの公理は1+1=2を説明しているわけではありません。公理を使って証明をしているが、それは論理学上明確でない+という概念を使わない場合でも、1+1と2が自然数的に同一であることを証明できるというものであり、1+1=2という概念自体を説明したものではありません。説明という意味では、自然数の並びを定義した時点で数学的には説明されており、カントの純粋理性批判で言われるような、1+1の中をどのように探しても2という概念は存在しないということを解消するようなものではありません。

 

3 1+1=2の持つ意味

○「1+1=2」の意味について考えると、論理的には左右の等価や左辺を用いた右辺の結合を示すものです。例えば、左辺に赤いという概念とリンゴという概念があるなら、右辺には赤いリンゴがあります。この場合、赤いリンゴには赤いという属性とリンゴという対象が含まれます。同様に、水と流れるという概念があれば、その合成物は流水であり、その中には川や水道などの概念も含まれます。しかし、1と+から2という概念を直接見つけることはできません。

純粋に論理的に考えると、1+1=2を説明することは難しいと言えます。修辞学的な観点から見ると、1+1=2に納得することはできません。

 

○「1+1=2」とは何か

ペアノの公理によれば、1や2は自然数の定義であり、1に単位数が1つ増えたものが2です。この定義は単純ですが、自然数の空間を論理的に重要なものとして規定しています。1は1であり、2は1+1であり、3は1+1+1であるというように、単位数の増加は一方通行であり、同じ数は二度と現れないのです。自然数の空間は分岐も循環もしない一次元の直線状空間で、1+1=2が成り立ちます。

異なる空間には異なる法則があります。例えば、角度の空間では0°+0°=360°という循環がありますし、2ビットの空間では0+1=1となります。このような空間では、1+1=2が常に成立するとは限りません。

 

4 1×1=1もついでに考える

○幾何学的には、加算は1次元の操作です。数直線上で原点を移動させて演算を行い、最終的な位置の差が答えとなります。

一方、乗算は2つの数直線を直交させて四角形の面積を計算する2次元の操作です。つまり、1次元の線分を1つ取り、もう1つの1次元の線分を縦横にかけることで2次元平面を作り出すと言えます。

代数的には、数値としての乗算は単純な数学ですが、現実世界では量の操作として理解されます。例えば、掛け算の順序は重要です。足し算では順序が入れ替わっても結果は変わりませんが、掛け算では単位によって異なる結果が生じます。このような操作では、数値の性質を保ちながら計算を行います。

掛け算と足し算を混ぜた演算においては、掛け算の結果が足し算の共通単位となる場合、掛け算を先に行います。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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