私は耳かきが好きな方で、耳穴を掻いて異物を感じると取り出して実物を見たくなります。近年の耳鼻科医は耳かきをやめさせるようにしていますが、なかなかやめられません。この何故に医師は止めさせたがっているのかから、生物の再生について考察してみました。
○耳かきの無意味性
・耳垢と耳かきとは何か
耳は呼吸器系と同様に中空の管構造になっています。外耳道はそのまま耳殻が取り巻いた穴だということはわかりますが、中耳も咽頭につながった管です。管の中間が振動を伝える内耳と接触している構造になっています。耳の管は呼吸器や消化器官と同じで外皮であり、真皮で分裂発生してから表皮まで移動して、最終的には破壊されて剥離します。この剥離が垢となります。全ての外皮は垢になりますので、消化器や呼吸器も外皮ですが普通は粘膜となっていて、多くは消化器系で排泄物になります。
耳かきとは外耳道の古い死んだ皮膚を剥ぎ落とす行為になります。
・耳かきを禁止する耳鼻科医
近年耳かきを禁止する医師が多くなっています。少なくとも、健康な状態での耳垢は自然に落ちるので耳かきは必要ないと言われます。それよりも耳かきの危険性の方を指摘する場合が多いです。
・耳かきの危険性
耳かきの危険性は2つあります。一つは鼓膜に直接触れて痛めること。もう一つは外耳道を過剰に刺激して炎症、出血、痂皮(かひ:かさぶたのこと)になり逆に難聴になることがあります。このようなことが起こるのは、刺激に対する習慣性とより強いまたは新たな刺激を求めて進行することがあるからです。
○外耳の外皮の再生システム
・皮膚の成長
外耳の垢は耳かきを差し込んで取らなくていいということには外耳道の皮膚の成長のシステムに理由があります。通常の皮膚は表皮最下部の基底層で分裂し、表面に押し出されて、外皮になって固定し、老化してはくりします。
・鼓膜を含む外耳の成長
外耳道の場合も分裂、表面への移動は同じですが、表面に出てからが違います。外耳の表皮は老化に伴って耳殻向かって移動していきます。耳殻との境界で枕を主体とする寝具と擦れて剥離します。これによると、外耳道深部の皮膚には老化した部分がなく垢になることがないことになり、奥にできる耳垢は耳かきによって傷んだ皮膚が垢化したもので、それを掻き出しているというマッチポンプ的行為ということになります
・爪や髪の毛との類似性
イメージし難いかもしれませんが、人間の皮膚には同様な機能を持った爪と皮膚があります。イメージとしては爪が爪母で分裂して爪床を爪床の一部を巻き込み成長しながら指先に移動し、外爪皮角が外爪皮から離れた時点で終了するのと同様とも言えます。
○ネズミと鮫の歯について
・ネズミの歯の成長
伸び続ける歯の代表はネズミの切歯です。歯の形状や組織構造は人間と同じです。ただ、ネズミの切歯の根元にあるエナメル芽細胞が、人間の場合は歯の形状が完成すると多くが死滅し、外刺激による摩耗などに対して遥かに低い再生能力になるのと違い、ネズミの歯のエナメル芽細胞は分裂し続ける機能を失わないというシステムです。これは多くの草食動物の臼歯にも見られます。
・鮫の歯の成長過程
同様な器官で有名なものはサメですが、サメの場合口腔内の皮膚がうろこ状の板として発生し、口縁に向かって移動するにつれてエナメル質が含浸し、口唇のアールに沿って曲げられるときに皮膚から立ち上がるという構造のようです。表面を移動するところは耳垢と同じですね。
○象の歯について
・哺乳類の中でも象の歯は特殊な生え方をしている。
象の臼歯は水平交換というもの巨大な3本の臼歯を歯車のように少しずつはやしていき四角い端の角から摩耗していき、摩耗残りの歯茎内の破片だけを口先から脱落させます。
・再生の代行行為としての象の歯の特殊性
同じ草食動物でも牛や馬の場合はエナメル質の再生が咀嚼による摩耗と釣り合っており、歯自体の形状が変化しないのと明確に差があります。象が灌木まで咀嚼できるほどの嵌合力を持つための避けられない摩耗に対応した再生の大体としての歯の巨大化と生え方の変化ではないかと思います。
○再生について
・多くの組織は再生する
すべての生物の組織には再生能力があります。皮膚の傷が治ったり、骨が繋がったりできることからも、組織の欠損を補填する程度の能力はあります。
・再生の境界としての爬虫類と両生類の大きな差(組織再生と器官再生)
器官そのものにまで完全に再生能力を持つものの境目は爬虫類と言われています。イモリもトカゲも尾を自切しますが、骨まで再生できるのはイモリまでであって、トカゲは軟骨だけ伸長して骨の代替をします。
このように耳かきの度に生物の再生機構について考えてみるのはいかがでしょう。
【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。