『福祉車両の可能性』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

○社会の高齢化に向かって必要性が高まる車両と考えられるものとして福祉車両の充実があります。福祉車両と言われるものは保健衛生関連の特殊車両と障害者移動に関わる一般車両の機能支援車両があります。この中でも特殊車両はX線検診車や献血車など各機能を持った機関がその役割と既存技術、必要機器に応じて発注するもので一点物です。販売されるような福祉車両は基本的に障害者移動に関わるもので、大きく分けて介護者支援車両と障害者支援車両になると考えます。

 

○介護者支援車両
介護者支援とは、通常の人員輸送車両において、運転者である介護者が実施する被介護者の搭乗支援業務を補助する機能が付いた車輌のことです。通常のバスやワゴンでは下肢障害者用の車椅子も寝たきり障害者用のストレッチャーも載りませんのでそれなりの改修が必要です。ストレッチャーは救急車などで規格が決まっており、緊急輸送用ですが車椅子は生活輸送であり生活支援と言えます。

 

○下肢障害者搭乗支援
・スロープの問題点
車いす用の車両は後部ドアか後席サイドドアからの乗車機能を付けることになりますが、簡便なものはスロープと車椅子固定装置の設置のみですが、これでも簡単ではありません。厚労省の基準では屋内のスロープであっても自力で上るのは1/13、家族など一般的介助者で1/8、強健な専用介助者でも1/6であり、底床ワゴンと言われる車両でも床高は40cmはありますのでスロープ長は2.4m必要になり、一般的な移動手段では現実的ではありません。
・リフト
リフト機能を車両に付ける場合、引っ越しトラックのリフト車のように車椅子を持ち上げるものと、車両の座席をドアよりも外側にスライドかつ座面下げを行い車椅子からの乗り換えを容易にする座席リフトがあります。高齢者は足上げが不自由になる場合が多いので、床面が40cm程度ある普通の乗用車への乗り込みが容易でなくなります。この対策として、この座席リフトは高齢にも含めた杖や歩行支援器具での歩行可能な機能障害者にはそれだけで有効な支援となります。

 

○下肢障害者移動支援
・車椅子の車両化
車椅子を車両として機能的に見ると、単に座位による車輪移動機材であり軽車両と機能的な際はありません。電動化でも椅子と車輪と動力の結合でしかなく機能が画一的であると言えます。セグウエイから始まった近年の自律機構をもった電動移動機材の発達は、様々な形状の移動機器を可能にし、機能的には電動アシスト機能や立ち上がり機能など多様な車椅子の登場はラストワンマイルモビリティとの境界ギャップを限りなく低くでき、障害者と健常者の差を無意識化できる事象であると言えます。
・運転者用車椅子
下肢障害者の自動車運転は、現在その多くが折り畳み車椅子を使用して乗り換えと車載作業を実施しています。車側としては手操作運転機能、折り畳み車椅子収納スペースの確保、その他収納用に簡易クレーンやルーフキャリア収納システムなどがありますが、いずれにしろ障害者に負荷があります。車椅子の容積が大きいこともあって容積の小さい日本車ではのまま乗り込める車両は殆どありません。小型モビリティ技術を使用して車椅子をコンパクト化することにより、車椅子で乗車し固定でき運転できる車両を作ることも可能でしょう。

 

○視覚障害者移動支援
・視覚障害者と自動運転
近年のAIによるスマートスピーカー等の音声による対話型機器操作は、視覚障害者の機器操作能力を格段に向上させるといえます。音声対話型操作と自動運転は視覚障害者を健常者と全く同様なレベルでのプライベートな移動手段としての可能性を持っていると言えます。
・スマート白杖
視覚障害者の最も重要な移動手段は現在は白杖と盲導犬でありますが、その現状での危険性と行動制限の存在は明確であり、AIなどによって代替できないかは長く言われています。自動車の自動運転が可能になりつつある状態において、スマート白杖や盲導犬ロボットが無い事の方がおかしい状態です。
カメラやミリ波センサーなどを使った高精度の自動運転のナビゲーション機能、センサーからの文字読み上げやマッピングによる周囲情報の音声伝達機能などをコンパクトに纏めて白杖に付帯できれば、触覚感覚のみの白状に加えて、多くの情報を視覚障害者に提供できるものになります。
・盲導犬ロボット
ボストン・ダイナミクス社が拡張ナビ機能、触感センサ、超広角カメラ、超音波センサを搭載した四足歩行ロボットのspot、アイロボット社のビッグドッグなどが、四足歩行で、ナビ機能で歩行者とコンタクト取りながらの追随歩行ができるロボットができ、また公道走行が可能な無人配送ロボットが走行している状況で、その出現のタイミングが来ていると思います。
・スマート白杖
盲導犬ロボットのナビゲーション機能、各種センサー及びセンサー情報音声伝達機能などをコンパクトに機能限定して白杖に付帯できれば、触覚感覚のみの白状に対して多くの情報を視覚障害者に提供できるものになります。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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