『知的生命体への進化の必然性』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

1 人間は知的生命体を見たい
○知的生命体探索
近年、宇宙関連事業に地球外生命体の探査を目的とする電波観測や火星や木星のエウロパへの観測衛星打ち上げが見られるようになりました。地球以外に生命が存在すると主張する研究者は多いですが、宇宙のどこかに地球型惑星があり、宇宙人の存在確認がある程度の可能性を持つと言われるようになりました。地球外生命体を宇宙人と言うためには意思疎通可の存在でなくてはならず、その場合を知的生命体と呼称する場合が多くなりました。
○地球外生命体探索
地球外生命と知的生命体の違いはどんなところでしょうか。知的生命体探索では宇宙からの到来電磁波により人工的な痕跡の電磁波を発見することによりその存在を探ります。それとは別に、片方では液体の水らしき痕跡が見られる火星や木星のエウロパなどを、観測衛星などを使用し原始的な微生物やその痕跡のようなものを捜索したいと考えています。
この2つを比較すると、より一般的に衆目を集めるものは、やはり宇宙人と呼称するのにふさわしい知的生命体の探索の方でしょうか。しかしながらその電波等の発信源は極めて遠距離で実際に出会って、目で見ることは絶対にできませんので、見ることができそうな太陽系内惑星の生命探索と組み合わせることが衆目の維持には重要なのだと思います。

 

2 知的生命体
○宇宙人はいる
知的生命体としての宇宙人はいると思っている人は多いようです。太陽型の恒星の存在確率や赤色矮星を含めた小型恒星の保有惑星数と地球型岩石惑星の存在確率など、天文学的な基準としてのハビタブルゾーンというワードを大々的に言い出して宇宙人の存在可能性を当然のように広報しています。実際には恒星の温度と距離は単純ではなく、軌道が真円度合いや、恒星が出す熱変動や宇宙線量、自転周期、惑星の磁力のための内部層構造と核流動、また岩石惑星への水の供給問題など天文学では計算できない条件もあります。近年では有機高分子アミノ酸や核酸などの重合速度と分解速度の平衡条件なども生命発生の条件に入ってきて、フレッド・ホイルの確率も言われるようになってきましたが、それでもそういう条件を無視した宇宙人の可能性の方の喧伝の方が多いようです。
○進化と適応
さて、生命が発生し進化するとしましょう。そもそも知的生命体は、進化の到達地点であって、生命が発生した惑星では進化の結果として知的生命体にたどり着くものなのでしょうか。地球の生命進化において、系統樹という根本が多様で、先端に行くにつれて細くなり、最先端に進化の頂点としてホモサピエンスがいるという生命樹を適切と思う生物学者はいないでしょう。今では頂点に大量の枝先が到達して広く平になっている系統樹を示すことが多いです。現存する多くの生物が進化の頂点であるという考え方です。その意味では、これは進化というよりも適応という方が正確ではないでしょうか。
○機能と知性
人類において、知性の高度化は人類自身に何をもたらしているかというと、機能の向上であると言えます。猿人から原人、旧人、新人へと進化している間に火を使うようになり火食や野獣回避や夜間行動、言語を使うようになり集団行動や意思疎通での行為形成による暴力性の低下や、縫製による断熱性の高い靴や着衣は寒冷地への適応を成し遂げました。このような可能行動の増加が動物としての機能の高度化とみなされて知性の獲得は進化だと言われています。
実際には、猿人から新人までに起こっている動物としての形態の変化は、他の動物に対して進化という見方をする場合に対してごく僅かでしょう。現在は、猿人は属単位、原人は種単位、旧人は亜種の差ということになっていますが、近年、区分の壁は低くなっているように思います。特に旧人と新人は知性とそれによる行動形態という基準がないとほぼ分類できないのではないでしょうか。その意味で本来の身体機能と知性が同一視されている部分もあると思います。

 

3 知的生命体への進化の必然性
○知的進化は必然か
多くの人は、生物進化の最終結果として知的進化を捉えているところがあります。つまり、発生した全ての生命は知性を求めて進化するという漠然とした原則です。それが有るから、惑星探査で40億年以上の年齢が有る星が有ると知的生命の存在を想像します。果たしてそれは必然なのでしょうか。それを考えてみます。
○収斂進化と適応
進化末端を見ると、機能及びそれを実現する部品や全体の形態について収斂性が見えます。いわゆる収斂進化であり、イルカとサメとイクチオサウルスとペンギンの遊泳機能と体型が似ているというものですが、生物の種別に関係がなく、生活する環境に適応した結果、形態や機能が類似すると現象があると言われています。
○支配者の進化形態
収斂性を考えて、過去の環境の支配者、食物連鎖の頂点と言われる生物の機能を考えますと、カンブリア紀の海ではアノマノカリス、ジュラ紀の海では魚竜、白亜紀の海ではモササウルス、陸ではTレックス、新生代ではスミロドン、メガロドン、ホオジロザメなどですが、共通した機能は大きさ、筋力、顎(口)、牙(歯)があります。つまり、他を支配するためには、他より抜きん出た攻撃する能力を形態にも機能にも持っているということです。
○人間以外の高機能性
人間以外の高機能の獲得は遺伝や本能に依ります。そして、その高機能を単純化して少ない命令判断で実行するように発展するようです。ある狩人蜂は獲物を巣穴に持ち込む途中で落としてしまった場合、それを探して拾わずに持っているときと同様に巣穴に入って奥に置くような行動をしてからまた別の餌を探しに行くそうです。複雑な行動を判断の分岐を最小限にすることでプログラムの規模を圧縮して固定化し、堅牢性と格納性、子孫への伝達の確実性を上げるという高機能化を採っています。それにより体を小さくでき生存と繁殖のエネルギーを節約できることになります。
多くの動物、あるいは植物の機能化とはこのような傾向であり、人間のような、教育という長期間を必要とする知性による機能を取るのは特殊と言えるのではないでしょうか。
○類人猿における支配者形態
つまり、知性という進化形態はどの生物にも現れておりません。霊長類内で見るとチンパンジーが攻撃性、知力、筋力などの他の生物種の頂点を占める種と共通な機能を持つ、最も進化の頂点のように見えます。人間の機能は生物の進化の歴史を見ても見つかりません。人類700万年、またはホモサピエンス20万年以前には35億年の生物史に知的というものはなかったことから、この知的、それも認識論的な知性という機能はキリンの首や象の鼻、孔雀の羽のような過剰適応であり、進化のパーツではない可能性もあるのではないでしょうか。
○受動認知仮説と意識の役割
受動認知仮説というものがあります。私の認識でつまみ食いすると、人間の行動であっても主体は無意識であって、意識行動は無意識行動を理性が納得するように再構成した後付の記憶に過ぎない、というようなものだと思います。無意識行動のほうが適時迅速に行動できるので、熱さや痛み、物体の急接近に対する反射行動や危害を加えられた対象からの回避やサイレンや地震警報での緊張など条件反射行動が生態に重要な意味を持っていることでも明らかです。人間以外の動物の行動が素早く感じるのは無意識行動がほとんどだからと思われます。
あえて人間が意識行動を進化させたのは、5本の指や道具、火の扱いなど直感的には難しい復号化された操作を無意識行動化する場合に後付の意識で意味付けすることが多くの行動を身に着けるのに役立ったのではないかと思います。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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