『楽天の苦闘』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一


 楽天が苦闘している。通信会社が他の事業の利益をすべて食いつぶしているのが明確である。楽天は2017年にメガキャリアへの参入を実施した。誰もがその無謀さに驚いていたし、資本力と時間との大変厳しい戦いという認識は共有されていた。


 普通の感覚では、楽天がVMNOに参入した時に、楽天は雑多なVMNOを統合して、NTTのOCN、auのeーmobile、SoftBankのy-mobileに対抗する格安携帯の主要勢力として対抗すると考えていた。上手く纏め上げ政治力を確保すれば、回線借り上げでも通信料を確保できるような政治環境になっていた時代だからである。

 

 しかしながらメガキャリア化を目指すという選択をした。1985年の通信事業の自由化から20年遅れの3番目のメガキャリアSoftbankの企業としての成立が2006年であり、若い人だと楽天の参入は10年遅れでの4番目の企業が参入するかのように感じる人も多いかもしれないが、それは全く違う。

 

 そもそも通信事業の自由化は、電電公社の民営化と合わせて独占を禁止し、競争力により当時評判の悪かった通信サービスの向上を狙ったものであり、そのために政府は、競合会社なり得るよう電電公社は国際通信を分離し、au事業の展開会社KDDIの前身会社としている。

 

 少なくともauは国の意図により作成された企業であり、行政指導などもあって各企業やインフラなどを活用する道があった。auの前身であるIDOは複雑な企業体ではあるが、その中にJH、トヨタがあり、高速道路の路線に沿った光ケーブルを設置するとともに、トヨタ系列の販売店に通信局の設置が可能であった。

 

 Softbankはというと、その前身は日本テレコムであり、そこにはJRが創設した会社で鉄道路線の駅間通信回線をそのまま長距離回線に使用するというインフラがあった。また、日本テレコムは政府管理が強くなかったためもあって、外資系通信会社の日本参入標的にされ国際的な株式の争奪戦が繰り広げられた結果、かなりの資本注入がなされた経緯もあり、JRの無かった僻地への回線導入も可能になった。

 

 これらを見ても上位3社は基本的に政府による通信民営化の行政指導に乗っており、有利な条件である程度の支援のもとにインフラなどを手に入れられた状態にある。高度成長期以降地価の問題は発展の障害となっており、それは全く延伸しない新幹線網、繋がらない環状線道路網を見れば明らかである。インフラ支援のない状態でのインフラをベースとした事業への参加は極めて危険というのは誰もが理解できる。

 

 また、メガキャリアの需要が果たして増加するかの問題もある。メガキャリア保護のためか、日本では無料のWi-Fiネットワークがほとんど存在しない。存在したとしても、商業施設内、公共施設内及びその周辺に限定されており、移動する場合にはキャリアによるデータ通信が不可欠になっているが、これはインバウンド需要の大きな障壁であり、政府がJapan.Free Wi-Fiの設置を進めたが、その目処である東京五輪が無観客になり(通信会社にとっては幸運なのか)その施設は進んでいないが、インバウンド需要以外の需要は財政出動を伴うために、積極的でない政府は何らかの処置を取ってインバウンド客用の無料Wi-Fiを展開する可能性がある。


 このような状況を鑑み、楽天モバイルのメガキャリア化経費は、5G・6G化に伴い更に積み上がる可能性もあり困難と言わざるを得ない。


 やはり楽天はVMNOを追求し、安定化、多重化、高速化、回線使用料の無償化などを通信費の家計圧迫を苦慮する政府に張り付いて、有利な転回を確保するのが正解ではなかったかと思う。

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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