1 令和6年度の予算執行がおかしい
○調達案件が出てこない
私は官業務の外部委託、特に調査研究に関わる調達請求の案件の競争入札を探しています。第1四半期に関しては新規契約はないので、先月から調達ポータルで調達案件の調査を始めましたが、それから1ヶ月、調査研究として入札可能な案件が1件も出てきません。年度内の納入品なのですが、この時期に入札がないと半年の期間が確保できなくなり大規模な調査の執行は困難になります。感覚的ですが、異常な状態だと感じています。
○予算執行の原則
案件の調達は、取り見直さず当初の業務計画に則った年度予算の執行行為になります。昨年度の予算編成時に作成した計画で、どの時期にどの案件にお金をつけるかは決まっており、納期を年度末にしての必要実行期間から逆算した契約時期に合わせた調達を行います。
その金額と規模は、支払いは納入後、契約完了時ですが、予算の各省庁配分は調達要求時期であり、その時点で必要な金額が国庫に存在することが原則となります。
○今年の特異な予算配置
今年度の特異な予算環境とは何でしょうか。それは能登沖地震です。災害対策予算や復興予算に関して色々あった地震対応ですが、現在は災害復興予算は一般会計の予備費から1兆円を充当することになっています。一般会計の予算は税収が原資ですので、第1四半期末に国庫に有る納税額は法人の予定納税と給与等の源泉徴収に限定されます。
そのような状態ですので、本来は早期の執行計画がなく充当されないはずの予備費を確保する必要になっていると思います。限られた第1四半期予算での執行計画は停滞することが予想されます。
2 予算とはなにか
○予算要求とはなにか
予算とは何でしょうか。国家も家庭の家計簿と同様に収入と支出がありますし、家計と同様に収入額に応じた、食費や通信費、教育費などの家計支出の計画を立てる必要があります。国家予算とは、国として当該年度に国が活動するための経費を前年度に予測したものです。財政規模という予算総額は、税額などの収入が決まるのは当該年度末ですので、この計画は前前年度の確定した税収等を基準にして、前年度の予算を修正したものであると言っても良いと思います。財務の独自の仕事はこの規模を決定するのが殆どになります。
その内容については各省庁の仕事です。各担当部門からの当該年度の必要事業経費を組み上げたもので、財務の省配分指示で其々の項目の選択と圧縮量を調整します。
○予算要求は概算要求と呼ばれる
概算要求の概算とは予算額が大まかな方向性や規模を示すだけで、ある程度いい加減であるということではありません。不正確な金額積み上げで経費予測では省内も対財務の理解も得られません。通常、官の会計行為は根拠のある実額で行われます。実額なので円単位までの雲揚げが必要です。しかしながら予算要求における概算は、千円単位で四捨五入されています。「○○(千円)」と表示します。契約や会計行為では実額で円単位まで記載するのが本来ですので概算となります。積み上げ単価はだいたい百万円程度なので、誤記載チェック、検算時の手間が半分になります。
○概算要求の要求とは
予算は財務が上から組み上げるのではなく、下から、つまり各省庁、各担当のからのすべての事業項目に必要とされる予算要求額の合算になります。各省庁は恒常的経費に関しては、人員設備その他資産などから計算しますが、事業経費は各担当部門が各地方自治体からの要望や設備施設の更新時期を考慮し、当該年度に必要な事業に係る経費を積み上げます。その要求額と内訳、事業概要と要求理由を付けて財務に要求します。財務は各省庁の要求をまとめて資料化し政府に提出します。政府は与党内で協議し、事業選択の修正を行い政府原案として国会提出し、衆院、参院の順で国会審議を実施して可決決定し、これを持って、各省庁は省の業務計画の開始を指示します。
○予算の組み上げ法
各省庁はどのように予算を組み上げるのでしょうか。主要なルートは、各自治体が住民からの要望を受け事業要望として担当省庁に要望します。各省庁の事業担当は、各所からの上がってくる要望から当該年度実施の必要性などを考慮の上で事業を選択し、各事業の必要原材料購入費、必要役務量から求めた人件費、などから経費を見積もります。その経費を事業計画、目的、必要性、経費積み上げ資料などを合せて省庁の予算担当者に提出します。予算担当は総額を財務の担当と調整し、可能な総額に収めるために、事業の分割、小規模化、引き伸ばし、代替などの可能性を事業担当に提案します。その結果として財務省の税収予測に適合した予算が出来上がります。
3 予算決定のスケジュール
実際の予算作成スケジュールから、予算の構造を見てみましょう。
○10年前(X-10)
予算作成は事業計画の作成から始めます。省庁の公的な事業計画の最長は10年です。これは10年先の日本社会情勢、技術進歩、対外情勢がある程度の確度を持って見積もれるのは10年が限界だと思っているからです。これを、見積もりだけでなく長期事業計画として事業案化するのは、実作業計画である中期計画立案までの間に、必要な省庁間と対外国との調整を完了しておく必要があるからです。
調整とは、安保やFTA、PPTなどの国際協定の必要性、新たな人員や省庁内部署の新設の可能性、電波や海面、国有地などの割当分確保、長期に渡る予算計画などがあります。
○5年前(X-5)
5年間の計画は中期計画と言っていろいろな省庁や企業、その他法人が作成しますので目にした経験があると思います。以前はニュースなどに中期防衛力整備計画を中期防とよんでその内容が話題になっていましたのを覚えているニとも多いと思います。
中期計画は各省庁間の調整が終わって、他の事業とのすり合わせや、運用者とのすり合わせを行う期間です。この時期に事業の実施を決断します。
○前前年度(X-2)
この時期は予算要求の準備です。運用者や設置自治体、担当事務所、例えば動をならば国交省は道路局から道路建設の事業要望という形で要望を受け取り、実際に要望通り省の予算要求に加えるかを審議します。合せて、新たな事業の運営に必要な土地や人員増員の要望人事系統で実施します。
○前年度(X-1)
予算要求作業を開始します。時期が重要ですので細かくなります。この年の前半は、各省庁の審議になりまして、省庁案作成までの手順として読会制に則って1読、2読、3読と3回行うところが多いようです。これは国会にける法案作成と同じ手順となります。規模金額が大きな省庁の場合、それ以前で各部著内部での0読などを行う場合もあります。1読は要求趣旨説明です。主に省庁の計画・企画担当部門や関係する他担当部署との読み合わせとして、事業概要、事業の必要性、時期的適合性などの事業内容の説明と質疑応答ということになっています。
次の2読は要求内訳説明です。主として総務の財政・会計・人事担当との読み合わせとして、人員・予算の規模、その必要時期、事後の維持経費、償却計画など人員経費に係る説明と質疑応答となります。3読は1読2読の修正要求事項を盛り込んで、ほぼ完成案を財務との調整原案として局長級への説明を実施します。
7月末、省内の対財務調整案が完成した頃に、概算要求基準(シーリング)が財務から示されます。これは各省庁要求限度額になりますので、各省庁は省庁案を調整して基準額内に入れ込む超作業します。調整要領としては主に、事業分割の上での一部次年度送りが多いです。担当は予め多様な分割案を作成し多くの事業との入れ子構造に合致するように対応します。
8月中旬にそれを終了させ、省庁内、財務担当への調整の後、文書化して8月末に財務へ省庁原案としてする大臣の名を持って提出します。その後、年内いっぱい財務に対して各ランクごとの説明になります。9月主査説明、10月主計官説明、以下局次長、局長は財務主計官が実施で質問対応になります。
12月に財務原案と大臣折衝を経て、ニュースなどで多くの人が認識する財務原案の政府提出、与党審議の上で1月の通常国会に合わせて政府原案として国会提出し年度末までに国会通過して成立します。
○当年度(X)
当該年度は予算の執行です。執行は税収が国庫に有る分だけしかできません。実際の支払いが年度末であっても、予算の確保がなされない状態での彫琢行為の公示はできません。財務省は月ごとに作成した業務計画の示達計画に則って、収入である予定納税や源泉徴収など税収の状況によって時期を調整します。基本的に財務省からの事業予算の各省庁宛の示達計画は四半期ごとを目途に準備されますので、財務と調整の上で示達請求を実施して示達後に調達請求、入札、契約の後に業務実行、納入、検査、支払いで事業終了となります。
○次年度(X+1)
年度末で次年度は決算と報告書の作成になります。実施状況や成果、問題と対策を継続する事業、同様な事業に対する参考資料。また、実行内容が新規システムなど、技術報告や論文などで外部への門の可能性がある場合、特許関連部署と調整の上で成果の論文執筆や特許出願などの行為が必要になります。これは、企業や関連した組織が特許申請、新案登録、学会論文などの成果を上げた場合に、官を共同利益者に押し込む証拠になります。
○次次年度(X+2)
2年後になると、前年度に決算処理が終了した各省庁事業に対する会計監査、会計検査が、担当部署や契約企業に対して発生します。特に会計検査院の検査は今後の執行に影響しますので、疑問になりやすい事項の必然性について資料作成します。ここで、重要なのは時間拘束役務の兼業、購入物品の未使用、購入機材の維持費などが特に注目項目です。
4 今年は異常
○能登沖地震の災害復興費の謎
今年度の予算示達がおかしいのではないか、それに災害復興費が関係しているのではないかということを前述しましたが、なぜそう感じるかを説明します。
能登沖地震は規模の大きさ、被害の広範囲さにより激甚災害に指定されました。激甚になると被災者支援など災害対策への支出の国の出資比率が大きく上がり、予算の処置が必要になります。とにかく緊急に巨額が予想される予算処置は特別会計が処置されると思いましたが、令和5年度内は予備費の残額から有るだけ支出し、本格的な費用は令和6年度の一般会計の予備費を充当する事になり、予算の殆どは次年度送りになりました。確かに復興計画などは当年度に出てくるはずがないのですが、金額が確保され、いつでも使用できるという状態を作らなかったのは驚きです。
○特別会計と一般会計
特別会計を取らなかった理由は明確だと言われています。財務が財政規律重視で国債発行を避けたと言われています。一般会計は税収で賄われますが、特別会計は専用に予算を確保するために国債を発行します。名目を決めて発行された国債は流用はできません。一般会計も通常の予算は項目などを決定されていますので流用はできませんが、予備費については項目が決定していませんので、どのようなものにも流用できます。国債の場合、国債の借り換えなどで長期に確保され財務の手を離れてしまいます。
○予備費とは
予備費を災害に使用することは問題有りません。一般会計の数%程度で、年内に執行完了できるような災害、例えば豪雪での除雪作業や水害の泥除去作業、堤防修理など単作業で年度内に決済可能ならば、全く問題有りませんし、作業も通常の予算と殆ど変わりません。しかしながら額の大きなものに対応する機能は高く有りません。予備費は多額にかけて執行できなかった、請求が来なかった場合、国債償還の前倒しくらいでしか予算処置できません。予備費ならいくらでも大盤振る舞いできるということになります。
○事業費圧迫
ここで予備費を災害支援、復興費にする問題は、事業の執行計画を狂わせるということがあります。予備という執行計画がないものは、執行計画が明確なものの方を優先しますので、費用の確保は通常請求が優先され、執行枠の残額分を予備費として積み上げていくことになります。いつでも来る可能性のある災害地支援などを予備費で充当しようとすると、年度当初にも来る可能性がありますので、年度開始から迅速に予定額を充足する必要があります。
第1第2四半期は予定納税と源泉徴収が税収の殆どになりますので、予備費に先取りされると事業費が圧迫され、計画は可能な限り後ろ倒しになると考えられます。
【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。