『ローカル路線バスの自動運転化』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

○ローカル路線バスの自動運転化の必要性
ローカルの移動手段は苦境に至っています。公共交通の主役だった鉄道はマイカー所有率の向上によりバス輸送に転換し、そのバス路線も利用者の減少で採算が取れません。地方の人員輸送環境は、しばらくは100%を越える世帯自動車所有率で構成されていて、家族により賄われていました。その環境に住民の高齢化で老人のみ世帯の増加という想定外の困難が加わります。高齢運転手の事故を起点とした運転免許返納運動により高齢世帯の移動手段がなくなったのです。
公共交通機関は利益低下によって事業者は撤退し、その対応として事業は第3セクターを経て公営化し、それでも利用者が少なくワゴン車によるミニマムなデマンドコミュニティ化に至ります。このオンデマンドは業務作業の予測ができず、車両はいくらでも公用ワゴン車を流用できますが、一般乗合旅客自動車運送事業であり、その事業維持のための定期運送及びそのための2種免許運転手の雇用は簡単ではありません。運行機会が乏しい環境での乗り合いの維持は運転手の給与だけしか経費削減方法がなく、ほとんどボランティア化せざるを得ませんので、その結果としてバス運転手は不足します。
この問題への対応として、また現状の交通システムを大きく変えない方策として、運転手確保の代替に技術の進歩が著しい自動運転車の導入が当然考えられます。

 

○自動運転化に必要な事項
・組織の協力
路線バスの自動運転化には単に車両を持ってくればいい訳ではなく、環境などについていくつかの必要事項があります。
バス運営が完全公営化済みでない場合は運営主体のバス事業者の対応が必要になりますし、地元自治体やバス事業者などの協力や走行環境の整備も必要です。
・インフラ整備
走行車両をモニターするための無線ネットワーク環境や、バス停や走行ルートの監視にカメラや画像転送環境も必要です。道路もバスのセンサーカメラが認識しやすいようなセンターラインや路側帯、バスの停車エリアを白枠で囲うなどを整備し管理する必要があります。
・住民の協力
住民への周知も必要です。利用者に対しては、自動運転により運転手による利用者サポートはなくなります。特に手押し車やキャリヤを持ち上げられない高齢者への乗降サポートはできなくなります。安全のためにどうしても走行速度が下がりますので、到着時間も遅くなります。また、周辺住民も路上駐車は当然のこと、道路への落下物、路側帯を隠すような落ち葉や土砂の排除など道路環境維持への協力が必要です。そして何よりも新しい交通システムへの違和感を排除して、住民の親和性と利用意欲を振作することが必要です。

 

○実証実験の必要性
これらの必要な事項を考慮して自動運転の導入決定には、制度としての社会的受け入れ可能性や必要経費規模の受け入れ可能性に付いて実証実験で確認する必要があります。
・運用車両の設定
運用車両の設定が適正かを実証する必要があります。車両によってスムーズに運用可能な乗客量、選択可能なルート、道路走行環境や走行速度、必要なインフラが設定されますし、その逆に運用やインフラから車両を設定する必要もあります。
・運営路線、走行時刻の設定
運用を計画するに当たって、あらためて地域の運行路線の需要と運用可能性、運用効率を最大にできる路線と時刻表を決定する必要があります。自動運転によりバスが走行する道幅やカーブ、センターラインや路肩の表示設置などが制限することを実地検証する必要もあります。
・安全性の実証
公共交通機関の必要事項として、運用性の事業実証をすることの最も重要な事項は経営可能性ではなく安全性です。安全性については利用者への保証事項ですので確実かつ明確に実証する必要があります。運行中に発生しうる乗客が感じる不安全要因をすべて列挙し、全てを検証する手順を取らなくてはいけません。不安要員には急ブレーキ、急ハンドル、不自然な立ち往生、段差越ショックなど体感するすべての不測行動をすべて調査し頻度を明確に実証する必要があります。
・利用頻度価格設定の実証
考えた最良の運行での利用実績を調査し、この地域の現在の交通機関の必要性の実態を実証する必要があります。公共交通機関の維持が、一部の人の要求か、地域の総体としての要求かを声の大きさで判断してしまうことが今までの失敗を生んでいます。実証試験での利用状況から客観的に判断する必要性があります。

 

○過疎地域の交通インフラを福祉政策として実施する場合の重要事項
・行政からの自助共助公助の検討要請
一般的に現在、公共交通機関のみならず、福祉全般に言われていることがあります。それは最初から事業を公助を前提に考えることは、社会としての効率、利便性に適合しないことが多いということです。公助が地域のつながりを破壊してしまう可能性もありますし、個人の行動を制限してしまう可能性もあります。
・行政が掲げる「自助」「共助」の本当の意味
自助とは行政が何もしないことではありません。個人の行動を制限する規制を緩和します。今回の道交法の改正により、時速20km制限の免許不要の小型電動移動手段を使用できるようにすることが典型です。公助にも規制緩和があります。uberなどの白タク行為を条件付きで開放したり、地域のライドシェアやカーシェアに補助金を付けることもできます。
・免許返納に対する自助としての代替マイクロモビリティ
自助を検討すると免許返納で公共交通機関を準備すること以前に、免許を要しない小型電動自家用自動車の購入が選択しに上がります。現在のシニアカーの時速6kmではどうにもなりませんが、時速20kmになれば5kmまで15分なので、日常の移動手段になり得ます。もう少し元気ならば電動アシスト3輪車も選択肢です。
・自動車保有者による共助としてのuberサブスク
共助を検討すれば、地域のまだ運転可能な前期高齢者による免許返納した後期高齢者の輸送支援という手があります。uberのシステムをサブスクで実施すれば乗せ手と乗り手を調整できますし、顔見知りによるCtoC契約という手もあります。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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