『電動車椅子の進むべき方向』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

○電動車椅子の分類
一般的に車椅子というと医療用の椅子の左右脇にグリップ用の輪をつけた大きな車輪を付けて、背もたれの後ろに押すための取っ手がついたものをだけを指しますが、これが電動車いすになると多少の分類が出てきます。
(1)障害者用の車椅子の車輪に電動モーターを付けて肘掛けに操作用のスティックを付けただけのもの。これはモーター走行しない場合にはモーターと車輪間のクラッチを切れば普通の車椅子のように大きな負荷なく自分で漕ぐことも人に押してもらうこともできます。
(2)(1)の車輪を小さく椅子の下に配置することで車幅を狭くでき、車輪の歩行者やドアなどへの干渉をなくしたもの。これもクラッチが付いていますので、クラッチを切れば押してもらうことはできますが、自分では漕げません。
(3)4輪の高齢者介護用のシニアカー。ゴルフカートを小型にしたようなもので、ハンドルが付いていて自動車のように方向変換はハンドルで操作します。自力で乗り込むことも体を保持することもできる高齢者の歩行の補助用具です。
(4)(3)の3輪仕様の介護用のシニアカー。前輪を1輪にすると車輪とハンドルが直結でき、ブレーキも前輪を1系統でできるので部品数を大きく削減でき低価格化できます。しかしながら路側などの傾斜のある道路走行時や体重移動による左右への揺れへの安定性が劣るため転倒しやすい面があります。利用するには、より姿勢が安定できる機能保持者である必要があります。

 

○電動車椅子の交通手段としての位置付け
・歩行補助器具としての電動車椅子
電動車椅子は歩行困難者の機能補助機器であり、車両ではなく歩行機器として歩行機能を追求しているものです。その意味で、外骨格型のパワーアシストや下半身を立った姿勢で固定した形で健常者の目の高さや手の届く範囲を共有できる、ハンディキャップの解消に直結する機能が求められています。
・車両としての電動車椅子
現在増加しているシニアカーはその時速6km以下という低速性から、免許もヘルメットいらない歩道を走れる車両です。それだけでなく自賠責や車両登録などの車両管理の必要もありません。電池さえ管理できれば使用に障壁がなく電動アシスト自転車、セグウエイ、電動ボード等と同様な簡易移動手段として障害者や要介護者に限定されない利用が考えられています。
また、普通の車両となることで、交通インフラや道交法が電動車椅子の規格に適合しものに変わっていくことがハンディキャップの解消に直結すると考えられています。

 

○電動車椅子の方向性の現状
・スタイリッシュ(近距離モビリティ WHILL(ウィル))
近距離モビリティ WHILLはその車椅子とは思えないスタイリッシュさを持っている。そのスタイルを持って電動車椅子ではなく近距離モビリティとして健常者も含めた普通の移動手段として使われることを狙っている。
・2機能併用(歩行補助車+電動車椅子 スズキ「KUPO」)
スズキのKUPOは電動車椅子が変形して電動の手押しカートになる。これにより、補助機器があれば歩け、歩きたい高齢者を車椅子に拘束することなく、スーパーまでは車椅子、スーパーの中はカートで歩いて回る、歩けるだけ歩いてキツくなったら車椅子という選択を可能にして、高齢者に選択の自由度を広げる事ができます。
・ミニカー(シニアカーの原付版)
シニアカーを時速6kmを超えて運転できるようにして、シニアカーを忌避する高齢者の自動車運転の解消の受け皿にするために、原付ミニカーとしての時速20km程度の低速モビリティを活用とする考えです。流石に時速6kmでは日常の用途の利便性低下しすぎるという高齢者やシェア事業に自動車は駐車場や車両管理費が掛かり過ぎ数量が確保できないと言った事業者に適応性があると思われます。
・ロボット車椅子(ZMP「RakuRo」)
RakuRoは物品搬送用ロボットDeliRoのカーゴを乗用の座席に換えたもので、目的地を入力すると自動運転で搭乗者を運ぶというロボットです。移動範囲を限定することで簡便な自動運転で機能を制限し、価格低減や早期の実用化を実現したもの。過疎地のみでなく市街地でも集約、廃止が進む公共交通機関の代替になりえると考えられている。

 

○電動車椅子の進むべき方向
(1)必須と思われる機能
・電動車椅子の車両化
新しいモビリティ構想で電動キックスケーターを時速15km以下を条件に電動アシスト自転車のように、免許不要、限定的保安装置、ヘルメットは推奨の範囲で車両化する計画がある。電動車椅子も障害者の障害程度により時速15km以下の走行を認める事ができるのではないでしょうか。
・電車に自力で乗れる
現状の車椅子が電車やバスに乗る時の手間はバリアフリーから程遠く、障害者の社会参加の大きな障害になっている。改札で事前申告し、乗る車両を決めてスロープを渡してもらう。乗ったらスロープを外し、それを確認してからの発射になります。それを乗り換えの都度しなくてはならないのはシステムでなんとかできないものでしょうか。
・階段を使える
道路には段差が多い。車輪で便利なのは舗装道路だけである。そもそも車輪が発達したのはローマの街道の石畳など堅牢でフラットな道ができたからです。その意味で、屋内や室内を車輪で移動することは適していません。
・自動車に乗れる
自家用車に乗るのは大変です。車椅子から座席に移動し、乗っていた車椅子を車載する作業は一人でできる方もいるようですが、障害の程度により大きく能力の差がでるところです。現在でもスロープ車などは各種ありますが、電動車椅子に乗ったまま自分で運転するとなると探してもシボレーアップランダーの例しか見つかりません。運転支援システムやワンペダルが出てくる現在、コンパクトな電動車椅子などで小さな車でも対応可能になるのではないでしょうか。
・立ち上がれる
社会のインフラは、基本的に平均を基準に作られています。屋外の施設、屋内の各種窓口、インターホンなども歩いている人の高さを基準に作られています。
(2)トヨタモビリティ基金
ここで昨年トヨタモビリティ基金で賞をとったシステムが歩行補助装置を欠損機能の支援を多様に捉えているのでおもしろい。
・AI搭載自律制御車椅子
・筋電気刺激を活用した下垂足(足首の麻痺)者向け歩行支援装置
・利用者一人で移乗・着座の移行を可能にし、立位状態で走行できる電動車椅子
・路面感知、姿勢制御機能を付加した電動式の外骨格
・車椅子ごと移乗可能な車椅子電動化ユニット

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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