『農業の生産性について』青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー 中嶋隆一

○持続性理論
・飢餓発生予測
SDGsの基本原理である地球の「持続可能性」は、1972年のローマクラブの「成長の限界」であり、経済成長が続くと、人口増加やエネルギーなどの天然資源の大量消費で、やがては賦存量の限界に達するということであり、食糧問題については人口増加が続くと土地不足が発生して、やがては食糧不足が発生するとの予側がなされ、多くの人の懸念として固定された事によります。
この予測は未だに実現していないが、現在において 8 億人が栄養不足に陥っていることを深刻な問題であるとして、持続性の問題として主張することが一般的になっています。
現在において、飢餓の背後に別の問題が存在するということは明確であるし、人口増加が飢餓をもたらすという主張が1798年のマルサスの『人口の原理』以降、常時予測され、全てが外れているという事象がありながら、食糧不足が発生するかどうかについては、未だに重要な社会問題とされています。
・飢餓から環境問題へ
飢餓の要因の片方である人口増加については、現在は無限に憎悪化するという人はいません。先進国の人口減少がいずれ途上国にも及んで、そう速くない時点で人口増加は停止し、減少に向かうという予測が一般的であり、人口を飢餓の要因にはし難くなっている。そこで、近年の食糧問題は社会環境の持続性という意味を含んで現在のSDGsに移行されています。

 

○農作物
・稲作ほど生産性の高い産業はない。
稲は種まきから収穫まで6ヶ月、発芽してから茎は分げつして1本の茎から20本の穂ができる。穂1本あたりに結実する粒数は80粒程度で、収穫可能化1600粒となります。
小麦のばあい種まきから収穫までほぼ10ヶ月、収穫数としては、芽からの茎の分げつ数は施肥、撒き時期で大きく差がありますが、ほぼ10本以下といったところでしょうか、穂1本あたりの粒数は60粒程度ですので、収穫できる粒数は600粒となります。
とうもろこしの場合、種まきから収穫まで5ヶ月で収穫量は茎から脇芽が出ますので、茎2本とすると、1本の茎から500粒の実が1本できますので、1200粒になります。
野菜の株あたり収穫数で言えば、きゅうりの収穫数は成功の目安として株あたり100本、ナスは200本で穀物とは桁が違いますが、種子ではなく果実収穫なのでよく改良されたものだと思います。
この1000倍、10万%利益率はどのような金融資産よりも大きくて、万馬券でも100倍なのでこの100倍は、10万馬券を高確率で当て続けるのに等しい産業であることがわかります。
・種苗と苗の革新
メンデルの法則による、交配第1世代には優性遺伝子しか発現しない遺伝的に均一な種しか発生しません。この種子は均一であるために発芽や収穫時期、大きさ等が均一で、耐性も予測可能であり、高収穫、省力化が実施しやすい。第2世代になると伴性が現れて、均一性や耐性が失われてしまうので自家採種はできないが、それ以上の効果があると言われています。これを利用したのがハイブリッド種子やF1と言われる種子です。
種子ではなく苗を使用すると、土地の利用効率が挙げられるし、発芽率の心配はいらないし、苗は大量に生産でき茎の径を選別して植え替えが可能になり、収穫時期などの調整ができる。クローン苗ならばF1種子よりも確実に均一性、優性を保持できます。

 

○農作物にとって価格上昇が重要なわけ
・効率
農産物価格が上昇すれば、生産者は価格上昇を予測して農機具、季節雇用などの資本が投入でき、生産効率を上げることができます。
・生産者数
 価格が高くなり効率が上がれば、単位面積あたりの投下労働力が減少でき、労働負荷は軽減され、体力等の肉体的適性の幅が広がり多様な労働者が就業できるようになる。
・耕地面積
 農産物価格が上昇すれば効率が上がり、労働対価が改善し、また生産調整の必要もなくなり、結果として広い耕作能力が上昇し、所有休耕地や放棄農地での作付けが可能になります。
・農業改良
 価格が上昇すると生産効率、生産者数、耕地面積が上がり、多くの資本を研究開発経費に投下できるようになる。その資本投下は機械の高性能化と品種改良が主体であり、その結果として機械化可能耕地が増加、種子あたりの生産量、生産物自身の味覚等の質が向上する。、
・価格上昇が社会にもたらすもの
農業生産力増加は多様な産地や天候耐性などが向上して価格が安定化して、結果として家計支出の自由度が増加し、余暇や教育へ家計費を割けるようになります。また、農業自給率が向上し国力の向上に寄与することになります。

 

 

 

【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。

 

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