1 人は何故画期的技術革新を求めるのか
○人は未来を見つめる。
人は未来を見つめています。若い時は、これから生きていく社会をより良く見ようとします。年取ってからは、自分の子供や孫が見る世界を美しくより進んだ社会出会ったら良いという思いが有ると思います。それは社会の利便性についても同じです。私が子供の頃、まだ蒸気機関車が走っていました。客車のドアは普通の家のトアで乗客が開閉して止まる前に飛び降りる人がいました。電話は呼び出しで、自家用車は夢でした。そこから現在を見ると、画期的な乗り物が出てくると思うのは当然かも知れません。
○社会進化論と産業革命
ダーウインの進化論は、生物が過去から今まで環境に適合しながら変化してきて、これからも変化するということを観察により科学的に論じましたが、社会学者はその論法を利用し、科学の進歩に従って社会は進歩するという説が広まりました。産業革命はまさに人間の進化に沿ったもので、科学技術はどんどん進んで社会は革命のように一変すると思われていました。
19世紀後半の電気や化石燃料の使用は、この社会に全く違う生活環境をもたらし、それは現在も少しペースを落としながらも継続していますので化学は進歩するものという意識は常識となっています。
○水木しげると藤子F不二雄の絶対効果
ある個人の頭の中の存在が、日本人全体の共通認識になることがあります。その例の典型が水木しげるが書いた妖怪の認識です。我々が妖怪を想像するとき、その構成メンバーの殆どは「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる妖怪です。魑魅魍魎や鬼と言われた「あやかし」と言われるたぐいはすべて水木しげる氏の妖怪図鑑に取って代わられました。
その現象の未来技術版が藤子F不二雄氏のドラえもんの四次元ポケットから出てくる道具です。特に常識化しているものは「どこでもドア」と「タケコプター」でしょう。多くの人がモビリティを考えるとき、遠距離ではどこでもドア、近距離ならタケコプター、この2つがあったらと思うのが日本人の共通概念でしょう。この2つの道具を見ると、人間は移動に技術革新を期待しているというのがわかります。と同時に藤子F氏のようなSF作家であっても未来のモビリティは画期的なものを構想するのは難しいことを示しています。
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2 移動手段は画期的技術ではなかった。
○空中と陸上と海上しかないわけ
藤子F先生の例を出した通り、意外と画期的な未来のモビリティ技術がないなと感じませんか。それは移動が空中か陸上か水面かに限定されており、移動機構がプロペラ(ファン)がジェット気流(水流)、車輪の回転、及び磁力線というように限定されてしまうからです。
○仕事の伝達は化学と物理と電気しかない
この要因は、移動が移動体から胴体周囲の物質に対して進行方向と逆の方向の力を働かせ反動を得る行為ということからきます。現在の動力システムで使われている力は化学、物理、電気です。化学とは有機物を燃やして熱による膨張と反応による膨張ガスを噴出させるものです。
物理力は、移動体に付いた車輪を回転させる事により、車輪が地面を後方に蹴り出す力の反力で前方に進む力を得るもの。または、ピッチという捻じれの付いた日本船の櫂のようなプロペラを回転させ前方の水や空気を後方に押し出す流力を生じ働かせます。
電磁力も近年実用化されています。移動体に電磁石で強力な磁力を発生させ、静止体にも磁力を発生させて、その磁石の反発や誘引を力として発生させで移動体を進める力にします。
○物理、化学、電気のバリエーション
すべての移動体の動力はすべての力に限界があります。移動体の動力はその力と動力機の規模がある比率で釣り合って、規模を大きくしても移動体が成立しなくなります。そのため単純な規模の大型化は成功しない場合が多いです。エネルギーによって胴体のパワーが決まると言ってもいいです。最もパワーが出るのが化学エネルギーでエンジンも化学の燃焼反応をそのまま圧力として利用するか、ピストンやタービンでプロペラの物理エネルギーに変換するかとなっています。物理と化学のエネルギー差は土木作業で発破をかける破壊力と掘削機の破壊力を比較すれば明らかです。電気にしてもモーターでプロペラや車輪の物理運動に変換するか、リニアモーターや電気泳動で直接噴出力で起用するかの2種類ありますが、現在主体の物理変換については規模の限界があります。
3 実現が難しそうなモビリティ
○大型飛行船
19世紀から20世紀に移る頃、飛行船は航空機に先立って大型輸送機としての有望な移動体の構想でした。御存知の通り、大型飛行船はヒンデンブルグの大事故により、水素浮体が危険すぎるという認識により、輸送の花形にはなり得ないとされるようになりました。その後の飛行船は小型の移動するアドバルーンのどしての使い方しか有りませんでした。
2000年代になって静音性、低消費エネルギー性と浮体の材料が開発され大型化することにより十分な浮力が確保できるという見通しから「パスファインダー(Pathfinder)1」や「フライング・ホエールズ」といったキャリアとしての大型飛行船が構想されました。
また、社会システムが高度化して、通信衛星では不足する常時安定した広帯域かつ広域のグローバルネットワークが必要になり、高高度に大規模な通信機材を搭載し、自国領土上空で長期滞空し、自国防衛に寄与できる大浮力飛行船による成層圏プラットフォームの構想もありました。
大型飛行船の決定的な問題は巨体と軽量の矛盾のバランスでできている浮体が強風時の離着陸と地上拘束が極めて困難であり、巨大な格納庫と運行が天候に左右されるという致命的なものでありました。
成層圏プラットフォームの方はもっと基本的致命的で、現在考えられる繊維材料とヘリウムでは、高層の薄い大気でジェット気流に打ち勝って成層圏に到達する上層速度が発生するような浮力は得られないと思われます。
○宇宙エレベーター
宇宙エレベーターは、軌道に人工衛星をロケットで打ち上げる代わりに、静止軌道上にケーブルドラムを打ち上げ、そこからケーブルを地表まで垂らして、そのケーブルを自力で登っていく動力付きエレベータ籠に衛星を乗せて上空まで運び、必要な軌道高度で必要な速度になるような高度で打ち出します。
このシステムではケーブル繰り出しや自走籠などが重要と考えられましたが、実はケーブルの実現性が最も低かったということです。軽量で十分な強度、伸縮しない強靭な材料はカーボンナノチューブしかないというのが技術者の意見で、カーボンナノチューブの長繊維化技術の開発時期がそのまま宇宙エレベータの実現時期だと思われていました。
その後カーボンナノチューブの長繊維化の動向を見てきましたが、分子欠損が一つでもあると強度が大幅に低下するため、欠損をを完全排除する必要があることから、10年かけても最長14cmにしかなっておりません。静止軌道高度の36,000kmを考えるとほぼ達成不可能な数値と考えて問題ないと思います。
○ハイパーループ
ハイパーループはもともとはスペースX社が構想した真空チューブ鉄道です。このシステムは、鉄道を空気抵抗がゼロになる真空チューブの中で運行することで、超拘束運行を可能視することが主体です。特にシステム高製品個々には技術的なイノベーションがなく、既存技術を組み合わせるというイーロンマスクらしいアイディア構築です。
単なる組み合わせというために、技術的繋がりに多くの無理があります。いくつか上げますと、半径2mでもサンフランシスコとロサンゼルス間600kmを真空に維持するエネルギー量は大変ですし、真空中は放熱が困難なので動力車の熱は問題です。また高速とは言いますが、鉄道やタイヤでは魔策係数からいって500km/hを超えての安全性、効率性は良好とは言えないと思います。まだ、故障や乗客の緊急事態など運営部分が明確に想定できない構造にしかならないのではないかと思います。
4 実現するけど交通インフラにはならなそう
○空飛ぶクルマ
日本政府も空飛ぶクルマをモビリティとして構想していますが、その構想のは自動車はありません。どう見てもドローンか小型飛行機です。ここで国交省は「クルマ」という表現の定義を。「個人が日常の移動のために利用するイメージ」を表しているそうです。
空を飛ぶということを簡単に考えてはいけません。ヘリコプターやプロペラ駆動の小型単発航空機を見ると外板構造体強度を影響するまで徹底的な軽量化がなされ定期検査で対応可能な歪みや亀裂は許容されています。より軽量化が必要な電動の飛行体は自動車というほどのトラフィック環境では安全が守れないと思います。また、電動ゆえのローパワーは天候も影響も受けやすいです。ヘリタイプの浮力は気球と大差ないので、ビル風でもコントロールできなくなる可能性があります。
○完全自動運転自動車
自動運転は5段階ありますが、現状ではレベル5は実現不可能というメーカーからの意見が多くなっています。レベル4ならば運転不能時には停止して、乗車員や遠隔管理センターの操縦者にコントロールを任せることが許されますが、レベル5では問題発生時にも避難行動、事故処理、修復、交通規制対応、対人対応など適切な処置を自力で行うことをメーカーに要求される可能性があります。停止して指示を待つ行為に対して、自動車側が対応しなくてはいけないシステムの負荷の上昇はあまりに高くリスクが大きい。自動車企業はビーコンや誘導軌道など道路インフラや指定ルート往還など環境を社会に求める必要があると思います。
○電動旅客機
空飛ぶクルマでも有りましたが、飛行機の電動化も環境対策として求められているようですが、電動モーターがピストン内燃機関と比較される自動車と、比較がジェットエンジンになる航空機はわけが違います。ピストンエンジンが飛行機を動かしていた時代は1940年代で、その後はターボジェットからターボファンへの大型高速航空機ルートとターボプロップとターボシャフトの中小型機、ヘリコプターのルートに分かれていきます。
電動が取って代われるピストンエンジンはプライベート使用やエアタクシーに使用されています。これを見ても電動モーターの航空機はドローンと対抗する存在であることが理解できます。
電動モーターの旅客機利用として創発以上のエンジンを持つ旅客機の1発をモーターに変えるハイブリッド航空機が構想されています。エンジンが製造できる大量の電気をバッテリー蓄電し、大出力を必要としない場合にエンジンからモーターに切り替えるの動力とするハイブリッド構成です。また、水素燃焼エンジンと水素燃料電池モーターを一つのエンジンに組み込んだコンバインドサイクルエンジンも電気モーターハイブリッドと行ってもよいでしょうが、この場合の水素エンジンは現在は水素ガスタービンで比較的中規模以下の旅客機で使用限定されるターボプロップのプロペラエンジンです。ガスタービンで液体水素タンク高額なコンバインドサイクルエンジンを組み込む効果があるとは思えません。
【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。