○カーボンニュートラルとは
・脱炭素とカーボンニュートラル
温暖化に対抗する社会構築に脱炭素社会という言葉がありますが、これは炭素及び炭化水素を社会や産業に全く使用しないことです。対してカーボンニュートラルは、企業や社会、国家の各単位に関わらず、各領域でCO2の排出量と吸収量のバランスを取ることです。これは排出量と同じ量の吸収への貢献をすれば良いということです。
○カーボンニュートラルとCO2排出削減
・CO2排出源の状況
CO2の排出源は多様です。最大の排出源は燃料です。いわゆる化石燃料である石炭・石油・天然ガス由来の燃料、バイオ燃料と言われる木材やバイオマス由来の炭化水素もCO2の排出源になります。
建築に使用するコンクリートもCO2発生源です。コンクリートはセメントを原料にしていますが、セメントを製造時に消石灰炭酸カルシウムから大量のCO2が排出されます。
生物の呼吸はCO2生産工場です。人間を考えても人が一日に排出するCO2を1kgとして、1年間に全人類65億人が吐き出すCO2の量は24億トンとなります。この量は化石燃料が排出するCO2量の約9%に相当します。
○土壌菌分解
・CO2消費元の状況
CO2の吸収は多様ではありません。基本的に光合成のみです。多様性があるとしたら光合成生物の違いしかありません。陸上では森林などの葉緑体植物とシアノバクテリア類と共生する陸上植物(ツノゴケ、ソテツなど)がCO2を吸収しています。
海洋吸収と言われるのは、葉緑体を持つ水生植物や海藻、シアノバクテリアなどの光合成細菌と共生するさまざまな原生生物(有孔虫,放散虫,繊毛虫など)、菌類(地衣類)、後生動物(海綿、サンゴ、ホヤなど)などがあります。
・光合成による吸収の問題点
実は光合成はエネルギー変換としては極めて効率の悪い生成機構だと言えます。繁茂する植物の自身の代謝を含めるとエネルギー変換効率の理論的上限値は2~3%になりますし、野外の植物の発生から枯死の間の生育条件の変遷を考慮して全期間で平均すると、太陽光エネルギー変換効率はせいぜい1%レベル程度とのことです。つまり、日照や植物の植林程度の増加ではCO2吸収への影響は少ないということになります。
これについてはトヨタ自動車が発表した「人工光合成」のギ酸製造の技術では、エネルギー変換効率を7.2%に高めることに成功しました。実用水準といわれる10%以上を目指して開発を続けています。
○CO2削減法
・燃料
CO2の削減はそのままCO2発生源を社会から排除するということになります。排除方法にはいくつかありますが、第一は、化石燃料としての石炭・石油・天然ガスを化石燃料以外に切り替えることです。切り替え対象燃料は、燃料電池原料でありかつ燃焼材料にもなる水素があります。その水素の起源として、メタノール電気分解、水電気分解、廃プラスチック熱分解がありますが、いずれも究極すれば電力で代替することになります。燃料としては他にアンモニアがあります。アンモニアは沸点が-33度と水素に比べて高温であり、20度でも8.5気圧で液化するので、船舶や大型の車両などでは液体での貯蔵が可能です。ただ、着火温度が651℃と重油よりも高く、燃焼率を向上させるためにLNGとの混合や熱分解で水素と窒素にして水素との混合燃料とする方法があります。
第二に、バイオ燃料として穀物炭水化物のアルコール発酵によるバイオエタノールと植物性廃油や藻、ミドリムシなどから抽出した脂肪酸メチルエステルのバイオディーゼル燃料があります。
・食品、生物
燃料以外でも、焼却処理が必要な廃棄物の削減もCO2の削減と考えられます。これについてはプラゴミの削減やフードロスなどがCO2削減にリンクします。また、家畜削減も二通りの理由でリンクされています。1つは家畜が生産する精肉の数倍から十数倍と言われる、家畜が消費する穀物を直接に食料化や燃料化を行うことにより、食料や燃料の増産活動を抑制することが可能なこと、もう1つは家畜の腸内細菌がセルロース分解時に発生させる、温室効果ガスであるメタンガスの削減です。
○ネガティブエミッションとしてのカーボンニュートラル
・CO2の埋設
排出の削減ではなく空中に放出された空中炭素の固定はネガティブエミッションと言われています。これには具体的に2つの方法が考えられます。地下水貯留と光合成です。
地下水貯留はCO2高濃度で低水温の場合の溶存性の高さを利用し、地下帯水層にCO2を長期溶存させるという方法です。吸収量はCO2の濃度に大きく依存しますので、工場等の排気用の手段であり、大気中のCO2の回収には適していません。
溶存と同様に、化学反応での固定もCO2濃度に大きく依存しますので、400PPM程度の大気からCO2を化学的に安定的に固定できるのはやはり光合成しかありません。光合成でCO2を植物のボディとして固定しますが、自然環境では微生物によって分解されてしまうので、微生物の少ない地中や海中に埋没させて固定することになります。埋没時に植物体のままであると寄生付着した腐敗菌等によって分解される傾向があるので、防腐処理をするか炭化させて埋設すると効率的です。
【執筆者プロフィール】
中嶋 隆一 Ryuichi NAKAJIMA
EPIC PARTNERS株式会社 監査役。青山先端技術研究所・エグゼクティブフェロー。文筆家。
防衛省で31年間勤務し、研究開発業務に従事。定年退職後は、先端技術の研究・コンサルティング、大手企業のCVCのアドバイザーボード、公共領域のコンサルティング支援を行う。
誘導武器開発官付及び先進技術推進専門官、防衛省幹部学校において技術教育教官の経験を活かして、経営者・先端技術研究者等へのコーティングも行う。航空機搭載の電子とミサイルのスペシャリストとして、執筆、講演、セミナー等を幅広く実施。